Vol. 187|まかいの牧場 新海 貴志

トラクターに乗る新海さん

お客さんとスタッフと、
妻を笑顔にするために

運命的なご縁ですね。そして新海さんが求めた「人と自然の間を取り持つ仕事」として、まかいの牧場を選んだのですね。

訪れた当時はまかいの牧場のことを知りませんでしたし、観光牧場というジャンル自体が未経験だったので、「なるほど、こういう施設もあるのか」というのが第一印象でした。

ただ、実際に働き始めて分かったのは、ここはまさしく、人と自然の間を取り持つ場所だということです。一般的に、動物を扱う企業への就職希望者の多くが根っからの動物好きで、「動物と触れ合う仕事がしたい!」という熱い思いを持っています。それ自体は素晴らしいことですが、「人と関わるのが苦手だからずっと動物のそばにいたい」というタイプの人は、まかいの牧場の仕事にはまったく向いていません。

ここでは動物はひとつの素材であって、何よりも大切なのは、訪れた人に喜んでもらうことです。つまり、まずは人が好きで、その上で動物や自然と関わることも好きという感覚が求められます。僕自身も、動植物への愛着以上に人と関わることが大好きですし、どうすればより多くの人を笑顔にできるかをずっと考え続けて仕事をしています。 駆ける馬

新しい企画やアイデアを生み出すことが得意な新海さんですが、その秘訣は?

情報収集は24時間365日やっています。家族と行楽地や食事に行くと、新しい企画のヒントがたくさん見つかりますし、インターネットからもいろいろなアイデアが浮かびます。僕たちの仕事は、世の中のあらゆるものを参考にできるし、勉強になると思っています。

またそういう視点で過ごしていると毎日が楽しいんですよ。新しいことを思いついて会社の決裁が下りたら、すぐに実行します。特に場内の施設については、資材と重機を用意して自分たちの手で作ってしまうことが多いです。撮影スポットとして人気の『ハイジのブランコ』は3日で完成させました。最近では、テレビで観て「これはいい!」と直感した『スカイカウンター』という施設を作りました。ものすごく背の高いイスで、少しスリリングなんですが、富士山を絡めた写真がSNS映えすると好評です。

ちなみにこの施設は溶接技術を持つ若いスタッフに頼んで作ってもらったんですが、最近特に意識しているのは、「楽しい仕事はなるべく僕がやらない」ということですね。長年勤めていると、社内での立場や求められる役割は変わります。20代は挑戦の時期ですから、とにかく自ら動いて、どんどん失敗していいと思います。続く30代は自分がやってきたことを固めていく時期。そして40代の今は後進の育成に目を向けながら現場にも関わっていて、この先50代になれば、より育成者としての仕事が増えるでしょう。

なんでも自分が先頭に立つのではなく、チームとして、スタッフ全員がやりがいを感じながら頑張れることが大事なんです。面白そうな企画が浮かんだら、どんどん共有してアイデアを募ります。その中で選ばれたものが形になって、お客さんが喜ぶ姿を見ると、やっぱり嬉しいですよね。するとスタッフは「今度は何を作ろうか?何をすればお客さんが喜んでくれるだろうか?」と自ら考え始めます。この気持ちが何よりも大切なんです。

ハイジのブランコ

ハイジのブランコ


スカイカウンター

スカイカウンター

働く人の喜びが、お客さんの喜びにつながるのですね。

今の僕にとって「自分はこのために生きている!」と言い切れることが二つあって、一つは最愛の妻を笑顔にすること、そしてもう一つは、スタッフみんなが「ここで働いて良かった」と思える会社にすることです。

僕は2004年から毎日ブログを書いていて、多い時には一日に数千人が読んでくれます。まかいの牧場での出来事や感じたことを季節感とともに伝えていて、基本的にはお客さん向けの記事ですが、意外とスタッフやそのご家族が読んでくれているんです。

そこで僕が気にしているのは、スタッフの親御さんの思いです。ブログ内でわが子が頑張る姿、いきいきと働く姿を見られることで、親御さんは喜びます。するとスタッフ自身も嬉しくて誇らしい気持ちになりますよね。若い独身のスタッフが多い中で、家族に応援されているという実感は、仕事の質やチームの雰囲気を高めていく上でとても重要なんです。

動物や自然と関わる仕事を長く続けてきて、行き着いたのはやっぱり人です。昔よく遊びに来てくれた子がお父さんお母さんになって、自分の子どもを連れて来てくれたり、幼い頃からまかいの牧場が好きで、スタッフになってくれる子がいたり。

歳を取ると月日の経つのが早くなるっていいますけど、それは感動や刺激が少なくなるからだと思うんです。この仕事をしていると、日々いろんな感動があって、ドラマの中を生きている感じです。1年がとても長く感じられますよ。歳を取って変わったのは、涙腺が弱くなったことくらいですね(笑)。

この業界がコロナ禍で大きな打撃を受けていることは事実ですが、そこで一旦立ち止まらざるを得なかったことで、働き方や地域の魅力など、本質的なものを見つめ直すきっかけにもなりました。何事も、いいか悪いかを決めるのは周りの人ですけど、楽しいか楽しくないかを決めるのは自分ですよね。どんな環境でも自ら楽しもうとすることで、目的や行動は明確になります。またそういったはつらつとしたスタッフが増えているまかいの牧場は、これからも多くの人に楽しんでもらえる場所になると信じています。 ひつじ

Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text & Cover Photo/Kohei Handa

新海 貴志

まかいの牧場観光部課長
1974(昭和49)年5月22日生まれ(48歳)
愛知県岡崎市出身・富士宮市在住 (取材当時)

しんかい・たかし / 幼い頃から淡水魚に興味を持ち、水族館の仕事に憧れる。岡崎城西高校を経て進学したマッキー総合学園日本動植物専門学院では、動植物全般へと関心を広げ、卒業後の1995年、まかいの牧場を運営する朝霧ハイランド株式会社に入社。長年にわたって現場での業務を経験し、現在は観光部課長として広報・企画・人事など、経営の中核として活躍。2004年から始めたブログ『新海さんのイケメン日記』は現在まで18年間、毎日休むことなく更新を続けている。また、観光庁に採択された地域連携実証事業『キャン×スポ@あさぎり』のプロジェクトではE-BIKE(電動自転車)周遊ツアーのリーダーを務め、朝霧高原周辺の事業者と協力した地域振興活動にも積極的に取り組んでいる。

まかいの牧場
富士宮市内野1327-1
TEL 0544-54-0342
営業時間/9:30〜17:30(10/21〜2/20は16:30まで)
定休日/12〜3月中旬の水・木曜(不定休あり)
入場料/
【3〜11月】大人(中学生以上)800円|小人(3歳以上)500円
【12〜2月】大人(中学生以上)600円|小人(3歳以上)300円

まかいの牧場 Webサイト

新海さんのブログ

まかいの牧場入り口

Nutshell 〜取材を終えて 編集長の感想〜

まかいの牧場は、ここ数年でリニューアルが進んでいます。お店も充実しているし、山の斜面は拓けてとても見晴らしのいい場所になりました。昔のまかいの牧場が動物と子どもが主役のふれあい動物園的な場所だったとしたら、今は高原のさわやかさをまるごと楽しめる「自然公園」に生まれ変わっています。子連れの家族はもちろん、大人の友人同士でも、あるいは一人で散歩をしたり涼みに来るだけでも充実した時間が過ごせる場所です。

そのリニューアルの原動力はたぶん、スタッフのチームワークにあります。新海さんのお話を聞いて、牧場の皆さんがプロジェクトチームとして楽しそうに仕事をしている様子が伺い知れました。いろんなアイデア、いろんな企画を出し合って積極的に挑戦していくような活気あるムードを大切にしているんだと思います。来場した人みんなに、朝霧高原の心地よさをどう満喫してもらうかをとことん意識したような、サービスを提供する側の顧客目線を随所に感じます。

昔からの富士地域住民にとっては地元の裏庭的な観光地というイメージのあった朝霧高原ですが、今や全国的、あるいは世界的に見ても魅力的なスポットです。県外・国外から人が集まって地域が活性化するのはうれしい反面、どこか「ずっと独り占めしていたい」という思いもちょっとあって、複雑ですね。地元民としては頻繁に訪れて楽しまなきゃもったいないですよ!

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