Vol. 185|NPOしずおかセラピードッグ サポートクラブ 笠井清美
![笠井清美さん](https://facetoface.contextually.jp/wp-content/uploads/2022/04/vol185-main.jpg)
保護犬だって生きている
「自宅に迎えるならこの子、いや、あっちのほうがヤンチャで魅力的かも……」。大型ショッピングモールに併設されたペットショップで、愛くるしい子犬の姿につい時間を忘れ、こんな想像をしたことがある人は多いだろう。たいていの場合、散歩や遊び相手を十分にしてやれるかなど、現実を検討してから飼うかどうか決断するが、中には「かわいい」という理由だけで“命”を衝動買いする人もいる。命に伴う責任を度外視して買い求められた結果、不幸にも捨てられてしまうペットがいるのが現実だ。
そんな現状に問題意識を抱き、富士市で動物病院に勤務するかたわら、ボランティアで保護犬に幸せな第二の“犬生”を与えようと奮闘する『NPOしずおかセラピードッグ サポートクラブ』の笠井清美(かさいきよみ)さん。犬に関わる人たちに寄り添い、時には厳しく伝えるべきことを伝え、不幸な犬が一頭でも減るよう全力を尽くすその取り組みを取材した。
『NPOしずおかセラピードッグサポートクラブ』について教えてください。
おもに静岡県東部で迷い犬や捨て犬を保護して飼い主へ戻したり、譲渡会を開いて里親を探したりする団体です。犬を手放さざるを得ない人や、飼育環境についてなど犬に関する相談を受け付け、飼い主と一緒に解決策を考えます。
もともとは、都内で保護犬をセラピードッグに育成する『国際セラピードッグ協会』が、静岡県東部で活動する際にサポートしようと考えたのが始まりです。セラピードッグとは、特別な訓練を受けて、医療や福祉の現場で患者の心身の機能回復を図る動物介在療法で活躍している犬のこと。大の愛犬家でミュージシャンでもある、代表の大木トオル氏の取り組みに共感した地元の有志で、2004年12月にNPOを立ち上げたのです。
発足当初はノウハウもなく、犬を保護しても知り合いのつてをたどって里親を見つけるなど、小さなネットワークの中で活動していました。数年かけて、保護から譲渡への流れも定まり、他の保護団体とも連携しながらより効率的に里親が探せるようになってきました。 これまでに里親に託したのは約100頭ですが、小さな組織なのでこれが精一杯で、もどかしく思うこともあります。でも、譲渡条件を満たした愛情深い里親さんが見つかって、正式に保護犬の家が決まるとホッとしますね。
![保護犬譲渡会](https://facetoface.contextually.jp/wp-content/uploads/2022/04/185talk2.jpg)
![保護犬譲渡会](https://facetoface.contextually.jp/wp-content/uploads/2022/04/185talk3.jpg)
保護犬譲渡会
![保護犬譲渡会](https://facetoface.contextually.jp/wp-content/uploads/2022/04/185talk4.jpg)
活動を続ける中で難しいことは?
人手が足りない点です。迷い犬や捨て犬は、保護したらまず会員がボランティアで一時預かりして、散歩や食事などの世話をします。その間、手を尽くしても飼い主や里親が見つからなければ、そのまま会員宅の飼い犬になるんです。
会員数は約40名ですが、飼うことになる可能性を踏まえた上で、一時預かりに対応できるメンバーは2、3名。会員はみんな「犬が好き」「大切な命を救いたい」という強い思いを持っていますが、住宅事情や家族構成、仕事の形態によって誰もが保護犬を引き取れるわけではありません。一つでも多くの命を救うため、いろんな状況に対応できる会員が増えると助かりますね。
そして常に頭を悩ませるのが、いかに飼う人の意識を高めるかです。保護犬の問題の根っこは、突き詰めると飼い主のモラルに尽きるんです。コロナ禍で家にいる時間が長くなり、衝動買いしたものの飼えなくなったり、離婚や転居で犬を手放したいと相談してくる人はあとを絶ちません。ペットも人間と同じ命だと真剣に捉え、飼う前に立ち止まって考える必要があります。
相談を受けた時、心がけていることは?
手放すという結論に至るまでの思いに寄り添って、本音を汲み取ろうとします。飼い主が本当は何に悩んでいるのか、どこに問題を抱えているのか考えながらじっくりと話を聞いていくと、悩みの本質がハッキリしたり、思いがけず新しい解決方法が見つかることがあるんです。
たとえば、譲渡会に参加した30代の専業主婦の方は、小さな子どもがいて犬の散歩や世話まで手が回らず、手放したいと相談してきました。でもよく聞くと、仕事が忙しい夫に遠慮して家事育児のほとんどを一人で抱え込んでいる状況。まずは夫との話し合いと家事分担の見直しを促したことで、その後、家族の関係も改善して犬は飼い続けることになりました。
また、ある高齢女性は体調の不安から16歳の大型犬を手放したいと希望していました。もとは息子が飼い始めた犬で、結婚して家を出た後も毎週末世話に通っていましたが、現在の住まいに引き取るのは難しいとのこと。なんとか残り少ない“犬生”を住み慣れた場所で過ごす方法を模索しましたが、その間にも女性が入院したりして、やむなく譲渡先を探し始めたんです。すると同じ時期に、犬と暮らしたいと切実に願う70代の女性がいると耳に入りました。通常、60歳以上や単身世帯は譲渡条件に当てはまらないのですが、その女性は地域に根付いた暮らしの中で、ふだんからご近所で協力し合える関係を築いている人。周りの方々も、みんなで犬を見守りたい、世話をしたいと言ってくれたことで、その犬の寿命と女性の住環境とを総合的に判断して譲渡に至りました。
譲渡条件は大切にしながらも、最善の結果につなげるため、四角四面でない対応を心がけています。後者のケースでは、1頭の犬をご近所とともに世話をするような飼い方が、高齢者の孤立を防いだり単身世帯の見守りにも活かせる、新しい可能性も秘めていると感じました。
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