史上初のアゼルバイジャン能公演

甫の一歩 第18回

今年の仕事始めは1月5日でした。三が日は家でゆっくりと過ごし、初仕事はいきなり遠方の鳥取県。仕事で行くのは初めてで、そこから神戸、静岡と地方公演が続きました。なんだか今年は、今まで行ったことのない土地に行く予感が……と思っていたら、1月末から2月初旬まで9日間の海外公演です。行き先は、アゼルバイジャンとイタリア。もちろんこの海外公演は昨年の6月頃から企画していたものですから、分かりきったスケジュールだったのですが(笑)。

アゼルバイジャンという国、皆さんはどこにあるかご存じでしょうか?コーカサス地方のカスピ海西岸にあるアゼルバイジャン共和国は、1991年に旧ソ連から独立しました。現在は長期安定政権のもと、治安や経済などは比較的安定しています。また親日的な人が多く、日本食やアニメコンテンツ、伝統文化への関心も高いとのこと。そんなアゼルバイジャンで今回、史上初となる能公演に参加させていただいたことはとても光栄でした。

私の仕事内容は地謡(じうたい、能のコーラス隊)での参加で、本業の負担はそれほど大きくありませんでした。しかし、今回の公演は日本とアゼルバイジャンをつなぐ貨物航空会社とアゼルバイジャン政府直属の団体から招致されたもので、私は能楽師一団と担当団体をつなぐ役目を担っており、これはなかなか大変でした。おもに連絡係を努めていましたが、やはり不慣れな海外でお互い分からないことが多く、「あれはどうなってる?これはどうなってる?」などなど、さまざまな確認ごとを行ないつつ、滞在中のスケジュールを忙しくこなしました。今回は舞台での体力的な疲労よりも、公演を無事に終えるまでの心理的負担の方が大きかったように思います。

海外公演にはいろんな形態がありますが、今回私たち能楽師一団は、本公演翌日に観光に案内されました。至れり尽くせりのおもてなしをしていただき、それはそれは素晴らしい思い出となりました。新鮮な野菜を豊富に使ったアゼルバイジャン料理を堪能しただけでなく、美しい街並みの旧市街観光もさせていただき、アゼルバイジャンという国のうんちくを語れるほどに詳しくなったのです。

壮麗な「ヘイダル・アリエフ・センター」

公演はアゼルバイジャン語の字幕付き

 

もっとも、こうして思い出に浸れるのも、能公演が大成功だったからこそです。会場は「ヘイダル・アリエフ・センター」。世界的建築家のザハ・ハディッド氏が手がけた複合文化施設です。縦横に曲線がふんだんに使われた美しい姿の外観は、観る者を圧倒します。そしてホールは、まるで能公演を行なうために作られたかのような!完璧な音響と座席数。公演後にはスタンディングオベーションになり、私たちは日本の公演ではありえない、舞台にて礼をするカーテンコールを行いました。

このような素晴らしい公演を今度は自分が企画し実行したい。私の生まれ年である辰年の初めに、龍のように力強く飛翔する能楽師になると決意した、一生忘れられないアゼルバイジャン公演でした。

感動のカーテンコール

田崎甫プロフィール

田崎 甫

宝生流能楽師
たざき はじめ/1988年生まれ。宝生流能楽師・田崎隆三の養嫡子。東京藝術大学音楽学部邦楽科を卒業後、宝生流第二十代宗家・宝生和英氏の内弟子となり、2018年に独立。国内外での公演やワークショップにも多数参加し、富士・富士宮でもサロンや能楽体験講座を開催している。
田崎甫公式Web「能への一歩」

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