思い出喫茶通り【喫茶 ヴィーナス】

趣ある品々が調和して独特な心地良さを醸し出す

思い出喫茶通り

今回の取材先である富士宮市へと向かったのは、あたりが暗くなり始めた夕方、この日はあいにくの雨模様で不慣れな道を少しドキドキしながら車を走らせた。国道139号線の「ひばりが丘」交差点の近く(交差点手前に案内看板あり)、白い壁と赤茶色の瓦屋根が印象的で、どこか懐かしさを感じさせる建物が目に飛び込んできた。ここが目的地となる喫茶店『ヴィーナス』だ。

店の前に立つと、鉢に収められた色とりどりに咲き誇る花が出迎えてくれた。エントランス左側には鉄製の井戸のようなオブジェ、右側には小さな水車が置かれ、「このお店のコンセプトは……?」と自分に問いかけてみたが、この時点では答えは見つからなかった。

エントランスではきれいな花がお出迎え

古びた味わいのある消防ポンプ

 

その迷宮のような居心地の良さ
2代目店主が守り続ける
時代に流されない“普遍の美”

ステンドグラスが施された扉を開けると、ほどよい仄暗さの空間が広がり、居心地の良さを期待させてくれるとともに、ここでもまた「このお店のコンセプトは?」という疑問符が頭の中に増殖した。天井から吊るされた木刀のようなもの、目線を下げると筆者の背丈ほどもある大きな壺、いくつものヴィーナス像、艶々のウミガメの剥製……いずれも年代物らしいということ以外の共通点は感じられないが、不思議なことにまったく違和感がない。店主である廣瀬祐子さんに、筆者の疑問を投げかけてみた。

「この店には初代店主である私の父、望月貞次の趣味がギュッと詰まっています。今からちょうど50年前、喫茶店を始めることになってこの建物を造りました。中も外もほぼ当時のままなんです。父がとてもこだわりのある人で、やるとなったらとことんやる、そのためには勉強も惜しまないといった気質でした。建物は総檜で壁は漆喰、基礎には鉄骨を使い地震に強い構造になっています。建物の形や中の造りは独特で、設計士さんと時間をかけてディスカッションしたようです」(廣瀬さん)。

 不思議な飾り物の数々はどういう経緯で置かれているのだろう?「父のコレクションがほとんどです。べっ甲の材料となるウミガメ『タイマイ』の剥製は、父が皮革製品を扱う商売をしていた時のものです。入り口にある木刀のようなものは、じつは火縄銃で、シャンデリアは廃業したボウリング場のものだと聞いています。父が気に入りそうなものが手に入ると業者さんが持ってきていたようで……。外の井戸のようなものは昔の消防ポンプです。これは父がどうしてもほしくて懇願したものだと、あとになって消防の方から聞きました」(廣瀬さん)。

まるで建物の一部になっている火縄銃

存在感を放つウミガメの剥製

 

話を聞くと、筆者の中の疑問符がひとつずつ消えていった。和物・洋物・アジアンチックなもの……初代店主、望月貞次さんの思いは「コンセプト」という世界に留まることなく、「普遍的に永く愛され続ける」という信念だったのだ。それが初代の先見の明であり、色褪せることのない喫茶店の原点にもなっているのだ。

『ヴィーナス』の魅力はその佇まいだけではない。食事もスイーツもドリンクも、そのメニュー数は喫茶店の域を超え、ファミレス並みだ。「もともとはコーヒーだけを提供する予定だったのが、お客さまからのリクエストで食事メニューが増えていきました。富士宮といえば、やはり焼きそばです。オープン当初から、舌の肥えた地元のお客さまからも美味しいと評判でした。またセットメニューも豊富にご用意しています」(廣瀬さん)。焼きそば以外にも、ご飯系、グラタン&ドリア系、ピザ・パスタ系、サンドイッチ系、定食系など、空腹を満たしてくれるラインナップが嬉しい。

人気の焼きそば&エビピラフのセット

できたてで提供されるホットサンド

 

この日は食事のほかにも、ストロベリーパフェとブレンドコーヒーをオーダー。グラスいっぱいに散りばめられた旬の苺はフレッシュな酸味で、甘くコクのある上質なホイップクリームやアイスクリームとの相性も良く、ボリューミーでありながらもペロリと完食。パフェの合間にいただいたコーヒーの苦味が、口に広がる甘さをリセットしてくれた。「材料に妥協はありません。美味しいと言っていただけることが、私たちの一番の励みですから」(廣瀬さん)。

旬の苺がたっぷりのストロベリーパフェ

2代目店主の廣瀬さん、じつは『ヴィーナス』誕生のきっかけを作ったのだとか。「父が商売替えを検討していた頃に、知り合いの方が喫茶店を始めたという話を聞いて、夏休みを利用して私をアルバイトに行かせたんです。父にお店の様子を聞かれ、お客さまがたくさん来て繁盛していると伝えたことが、大きな後押しになったのでしょう。そして、やるならどこよりも大きく、大勢の方にお越しいただけるようにしたいという思いが『ヴィーナス』になりました」(廣瀬さん)。

コロナ禍の大変な時期を経験し、現在は3代目となる娘さんと一緒にお店を切り盛りしているという廣瀬さん。初代の思いを受け継ぎ、地元の憩いの場として愛される喫茶店であり続けるための模索を、今もなお続けている。

(ライター/reiko)

喫茶 ヴィーナス
富士宮市ひばりが丘287
TEL:0544-27-1144
営業時間  9:00〜21:30(21:00ラストオーダー)
月曜定休

ペンダント照明が店内をほんのり照らす

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。