近くて遠い!?沼津アルプス紀行 その1

お出かけレポート

ホッとひと息つきたいとき、私は仕事部屋から山をぼーっと眺める。象が伏せているような形の山、『象山』と呼ばれ親しまれている徳倉山(とくらやま)が目の前に見えるのだ。山は四季折々の表情で私たちの心を癒してくれる。いま思えば私の身近にはいつも山があった。あって当たり前だが、学校で行く遠足以外ではほとんど登ったことがない近くて遠い存在、それが私にとっての『山』だ。

香貫山(かぬきやま)から南へ横山〜徳倉山〜志下山(しげやま)〜小鷲頭山(こわしずやま)〜鷲頭山(わしずやま)〜大平山へと連なる山々は『沼津アルプス』といわれている。標高は約180〜400mで、いわゆる低山の部類になるが、ハイキング気分で歩きやすい小径から、鎖を伝って歩く急登までバラエティに富んでいる。それなりの覚悟をしないと痛い目に遭うぞ、と今回同行してくれたバディから釘を刺されて、桜が満開を迎えた4月上旬、香貫山から志下山までの登山に臨んだ。

黒瀬橋近くにある香貫山登口から入山。ハイキングコースと書かれていたが、すぐさま急な坂道を登った。少し歩くと五重塔(戦没者慰霊塔)がある香陵台に到着し、ここでは多くの人が満開の桜越しに広がる沼津の町の風景を楽しんでいた。なだらかな山道を進んでいくと、ほどなく香貫山山頂〜展望台に到着。ここでも美しい桜が咲き誇っていた。香貫山はたくさんの桜があることで有名だが、特に見事だったのは福島県三春町から寄贈された三春滝桜だ。この日が見納めであろう幸運に感謝しながら、次の山、横山に向かった。

香貫山登口から急な坂道を登っていく

香陵台は登山を楽しむ人の休憩スポット

この日が最後の見頃となった満開の桜

 

香貫山から横山へは一旦下山してから登ることになる(連山のはずがここだけつながっていない)。「イノシシ注意」の看板が目に入り、100均で買った鈴を慌てて取り出し装着した。準備万端さぁ行くぞ!と思った瞬間から(私にとっては)とんでもない急登だったが、山頂は意外にすぐ訪れた。「徳倉山・鷲頭山」と記された看板どおりに進み徳倉山に入る。

横山から徳倉山(象山)へは象の長〜い鼻、つまり長〜い坂をひたすら歩く、登る、休む……。坂道は切り株や根っこが顔を出し、前日の雨も影響し、とにかく滑る。そして象の額に近づくと、見上げるほどの急登が待ち受けていた。滑って転げ落ちないよう一歩一歩をていねいに歩いた。向かいから下ってくる人影を見つけると、さっと道を譲れるその時間のなんとありがたいこと!
1時間余りを歩き、山頂に。徳倉山の山頂は象の頭だ。ここでしばしの休憩をとり象の首〜背に向かう。象の頭から首にかけては急な下りが続き、ロープに助けられながら踏ん張りがきかなくなった足を慎重に運ぶ。首から背にかけて登り始めると、『太平洋戦争末期の機関銃座の跡地』『馬頭観音』『しおみち広場跡』といったこの地の歴史に触れることができた。江戸時代から昭和、現在に至るまでの原風景に想いを馳せ、少しのあいだ疲れを忘れた。ここからは黙々と象の背を歩く。木の根が張った小径は、切り立った石が海の方に向かって並ぶ道に姿を変え、この景色からもまた、長い年月の流れ、大自然を感じさせられた。

象の背から尾にかけては、所々で眼下に海と町を見ることができた。海に向かって左に目を向けると、小鷲頭山、鷲頭山が鎮座している。さて、次はいつ登ろうか……。戸惑いを感じつつもちょっとだけ武者振るいをする自分がいた。

志下山は標高214mで横山より高いが、徳倉山から尾根伝いのためハイキング感覚で歩くことができる山だ。木々も心なしか低く感じられ、この日の登山が何事もなく終わる安堵感を覚えた。『ぼたもち岩』のある志下峠から下山し、帰路についた。途中、段々畑跡であろう石垣を眺めながら歩いていると、苔生した荘厳な碑に目が釘付けになった。刻まれている文字は読むことができず、これは一体何の碑なのか……後日調べてみると、明治時代、この地に開設された高級旅館『保養館』に隣接された『静浦海浜院』という療養施設の医師であった安藤正胤(まさたね)の頌徳碑(しょうとくひ)であることが分かった。
安藤正胤は、静浦を当時の日本三大海水浴場として発展させ、学習院長乃木希典(のぎまれすけ)に請願して、学習院水泳部誘致に成功した功績で御紋章付御杯を授与されたそうだ。なるほど、島郷海岸になぜ学習院の水泳場があるのかずっと疑問に思っていたのだが、思わぬことがきっかけで長年の謎が解けた。モヤモヤもすっきり、歴史を感じながら身体も心もリフレッシュできた、充実の低山歩きだった。

眼下に見える志下エリア

志下峠にあるぼたもち岩で今回は下山

神々しい安藤正胤の頌徳碑

(ライター/reiko)

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