思い出喫茶通り【コーヒーショップ アドニス】

吉原商店街のほぼ西端にあるアドニス

思い出喫茶通り

このコラムを書き始めた8月中旬、数ヵ月ぶりに温かい珈琲を入れた。場所によっては厳しい暑さが続いているようだが、猛暑、酷暑といわれながらも、今年は秋の訪れを早く感じる(本紙が発行される頃には、再び暑さが戻っているかもしれないが……)。美味しいものへの探究心と好奇心が人一倍強い筆者にとって、これからが楽しい季節の到来だ。そして思いがけず、今回の取材で一足早く筆者の中にワクワクがやってきた。

ご当地グルメの域を超えた
つけナポリタンの奥深さに脱帽

富士市吉原商店街にある老舗コーヒーショップ『アドニス』。この店名を聞いて、すぐに『つけナポリタン』を思い浮かべる人はどのくらいいるだろう。恥ずかしながら筆者はまったく知らず……「つけ麺スタイルのナポリタン?」と、期待3割・不安7割の思いで待っていた。すると、具材が入ったスープと麺が別々の器に盛り付けられ、スプーンと箸、そして食べ方が記されたメモ『つけ富士リタン流儀』がトレーに載って運ばれてきた。箸で食するのは、幅広い客層に向けた心憎い配慮かと思いきや、のちにその「真の理由」が明らかになる。

かつての吉原商店街に、和洋中のメニューを取り揃えた人気店『丸市食堂』があった。長年愛され続けた食堂だったが、時代の流れとともに変化を余儀なくされ、昭和52年にコーヒーショップとして再スタートした。それがこのアドニスである。現在の店主は3代目の市川和典さん。「4人兄弟の三男坊で末っ子なんですが、誰も店を継ぎたがらなくて……最後まで家にいた自分がやるしかないかなと続けましたが、いろいろ大変でしたし今でも大変です」(市川さん)。そう威勢よく話す姿からは、苦労すら楽しんでいるかのような潔さが感じられる。

オープン当時から、トマトソース、カレーソース、ホワイトソースを自家製で仕込んでいたアドニス。これらを使って展開できるピザやグラタン、スパゲッティ、ハンバーグなどバラエティ豊かなメニューが自慢で、美味しい食事とドリンク、スイーツでお腹を満たしたお客さんの笑顔が絶えなかったという。「喫茶店という枠を超えたメニューでお客さまに喜んでいただきたいと続けてきましたが、食事メニューを徐々に絞り込み、今ではつけナポリタンのみという大きな決断をしました」(市川さん)。

店舗側面にも古き良き風情が漂う

ウインドウには以前のメニューサンプルが

店主の市川和典さん

 

つけナポリタンが誕生したのは、市川さんが吉原商店街の青年部で活動していた頃だ。商店街を盛り上げようと試行錯誤する中で縁ができたのが、テレビ東京の番組。当時市民権を得ていたB級グルメに続けと、新たなご当地メニューを創り出す企画だった。出演にあたりアドニスが抜擢されたが、はじめは断ったのだという。「テレビに出ると全国から人が押し寄せて、これまで店を支えてくれた常連さんの居場所がなくなってしまうのが嫌だったんです。でも熱心に説得され、商店街が賑わうならと出演を決めました」(市川さん)。

さて、テーブルに鎮座しているつけナポリタンをいただくことにしよう。まずは麺から。その食感が好きで普段から生パスタを愛食している筆者だが、このモチモチ感はひと味違う。その秘密は、開発でタッグを組んだつけ麺の達人による中華のノウハウが詰まっているからだという。さらに麺をよ〜く見ると、静岡を代表する味覚・桜エビが散りばめられており、一気にご当地感がアップする。炒め方にも中華の手法が使われ、麺と桜エビが互いの風味を引き立て合っている。いざ、スープへ投入。

濃厚なトマトベースのスープには、蒸し鶏、ゆで卵、マッシュルーム、チンゲン菜、たっぷりのチーズといった具材が所狭しと並ぶ。店主いわく、これも中華の盛り付けを模しているのだそうだ。特に驚いたのは蒸し鶏だ。噛むごとにスパイシーな旨味が口いっぱいに広がり、想像していた味とはまったく違うのだ。「富士宮産の鶏肉で毎朝スープを炊いて蒸すんですが、大量のホワイトペッパーを入れてパンチを効かせています」(市川さん)。なるほど……感心しながら箸を進めると、あっという間に平らげてしまった。

最後に出てきたのは、鰹と昆布のお出汁。これを残ったスープに注ぎ、一滴残らず完食へと導く。ここで活躍するのが「箸」だ。麺皿に残った桜エビを一尾たりとも残さずスープへ移すために欠かせないのだ。お出汁と桜エビが加わったスープは、一瞬で和風の味わいへと変化する。一気に飲み干し、つけナポリタンの濃厚な旅は締めくくられた。

「味変」も楽しめるアドニスの元祖つけナポリタン

人気のクリームソーダはグラスもキュート

 

今後は自宅でも楽しめる『冷凍つけナポリタン』の販売を計画しているという市川さん。「冷凍つけナポリタンは、2026年1月から始めたクラウドファンディングで実現にこぎつけました。現在は支援者への返礼品の準備を進めている段階で、これが終了すれば店頭やインターネットでの販売に向けて本格始動します。一般販売後は、皆さんのアレンジ方法などをSNSに投稿してもらうことで新たな盛り上がりを期待していますし、どんな食べ方をされるのか興味津々です」。 茶目っ気たっぷりの市川さんの眼差しから、つけナポリタンへの熱い情熱が溢れていた。

(ライター/reiko)

コーヒーショップ アドニス
富士市吉原2-3-16
TEL:0545-52-0557

営業時間
月・金・土・日曜  11:00〜売切れ次第終了
火・水・木曜定休
※ 営業時間・定休日は変更となる場合があります

穏やかな雰囲気の店内

メディア取材や芸能人の来店も多数

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