Vol. 144|企業組合フジヤマドローン 代表理事 望月 紀志
大空へ、一番乗り
第4次産業革命の担い手として、めざましい進化を続けるロボット工学分野だが、中でも 『空の産業革命』と称される小型無人航空機「ドローン」の存在を知らないという人は、ほとんどいないだろう。今やテレビ番組の撮影などでも頻繁に使われており、今後も多方面での需要が期待される。そのドローンにまつわる全国初の取り組みが富士市で産声をあげ、注目を集めている。異業種の経営者によって組織された『企業組合フジヤマドローン』がドローンに関する各種事業やイベント・セミナーの開催、災害時の支援活動まで包括的に担うというものだ。
同組合の代表理事を務める望月紀志(もちづき のりゆき)さんは、本業である造園業を営む中でドローンの可能性にいち早く着目し、さまざまな活用法を模索する日々を送っている。「何ができるか未開拓なツールだからこそ、ドローンは面白い」と目を輝かせる望月さんに、その旺盛なチャレンジ精神とドローンの魅力について伺った。
企業組合フジヤマドローンとはどのような団体ですか?
造園業者として測量に関わる僕の他に、農業、林業、点検業務に携わる経営者を募って2017年に発足した企業組合です。幅広い産業分野でドローンを用いた事業を請け負うための総合窓口を作りたかったんです。ビジネスには迅速さが大切ですので、すでにドローンが活用されつつあった分野の仲間に的を絞って声をかけました。ドローン事業に特化した企業組合というのは珍しいだろうとは思っていましたが、全国初の事例だと後から知って、僕も驚きました(笑)。
ドローンによる技術革新や経済効果を国家的に推進している追い風があるとはいえ、富士市周辺の狭い地域で新規参入した事業者同士が潰し合っていては、新しい産業を育てることはできません。相談や依頼に対応しながら、適正な価格で安全かつ良質な仕事が提供できる環境を作ることが重要です。また、そうすることでドローン事業の価値や魅力を高めて、後に続く事業者への敷居を下げたいという思いもありました。『フジヤマ』という組合名も、富士山周辺という広域で連携している姿を表現しています。当初4人で発足した組合員も現在では50名近くになっていて、今後も仲間を増やしながら、対応できる事業の幅を広げていきたいです。
広域連携といえば、富士市との災害時有償協定も締結しているそうですね。
地震などの災害発生時にドローンを活用した被害状況の確認、救助活動支援、応援物資の運搬などを有償で行うという協定です。応急的な物資の運搬が先なのか、道路の崩落などの被害状況を空撮で確認することが先なのかは災害の状況によって異なるとは思いますが、当組合員には充分な飛行実績があり、ドローンを安全に運行管理できるという承認を国土交通省から受けています。たしかな技術を持つドローン操縦士だからできることを積極的に提供することで、可能な限り地域に貢献したいと思っています。
また、最近の自然災害による被災地の状況を見ても分かる通り、実際に災害が発生した場合、その地域の住民自身は動けないことが多いのですが、組合員の中には富士市以外の近隣市町在住者もいるので、災害時には被害の少ない地域からお互いに応援に行くことができるという強みもあります。ゆくゆくは県内の他の自治体とも協定を結んで、ドローンによるセーフティネットを広げていきたいと思っています。
一般的に確立しているドローンの活用法にはどのようなものがありますか?
現時点ではカメラを使った空撮がメインです。測量や運搬、薬剤散布なども実用化が進められてはいますが、技術やコストの面ではまだまだ途上段階です。ただし空撮ひとつにしても、近年は驚くほど高画質になっていますし、そこにプラスアルファの技術や知識、アイデアを加えることで、ビジネスとして大きく発展する可能性はあります。人が行けない危険な現場の状況確認や大きな工場など高所にある設備の点検、首都圏では結婚式の集合写真やセレモニーでも、すでにドローンが活躍しています。僕自身がドローンと直接関わるようになったきっかけも、空撮でした。
小学校のPTA会長を務めていた頃、学校創立20周年の記念事業として空撮をすることになったのですが、ヘリコプターでの撮影は高額です。測量や高所の枯れ枝調査など、造園の仕事でもドローンを活用できるのではと以前から興味を持っていたので、これを機に自分で購入してみたんです。ドローンというと、過去には姫路城の大天守に誤って衝突させたり、イベント会場でのお菓子撒きでバランスを崩して落下したりという事故が起きていて、それらのニュースを通じて『危険で迷惑なもの』 というイメージを持っている人もいるかもしれません。ただ、2015年に航空法が改正されたこともあり、ユーザーの間でもルールを守って飛ばそうという意識は格段に高まっています。機体の性能も向上していて、センサーによる衝突防止装置やGPSと連動した運行制御機能など、安全面での環境は以前よりも良くなりました。
もちろんどこでも誰でも自由に飛ばしていいわけではなく、機体の飛行重量が200グラム以上のドローンについては関連団体による認定資格や、航空法、道路交通法、電波法などで規定されたルールがあります。私有地や公園で飛ばす場合でも、その土地の所有者や管理者の許可が必要です。まだまだ一般的に知られていないことも多いのが実情ですので、法律には規定されないモラルやマナーの部分も含めて、僕たち自身が率先して啓発していくことも、ドローン業界の発展には不可欠だと思っています。
『ドローンと、◯◯』で
世界が変わる
ドローンを使ったこれまでの仕事で、特に印象に残っているものは?
富士商工会議所からの依頼で、田子の浦のしらす漁の風景を撮影したのは印象に残っていますね。僕は田子の浦港の灯台付近でドローンを操作していたのですが、当初予想していたのとは反対側の漁場に漁船が向かったため、後ろからドローンが追いかけるという形になって、かなり焦りました(笑)。結果的には電波が届くギリギリの2.6キロ離れたところからドローンを操作して、駿河湾としらす漁の風景、そして背後にそびえる富士山を撮影できたのですが、『これぞ富士市!』という映像が撮れたと自負しています。
組合としては空撮の依頼に限らず、ドローンと名のつくことは何でもできる集団でありたいと思っています。すでに最大手メーカーの正規代理店として販売を行っていて、機体の点検や整備にも力を入れていきたいですし、いずれはドローンの機体そのものを製造できたらと思っています。富士市が開発を推進している超微細木材繊維の新素材、セルロースナノファイバーをボディに用いたドローンを作って、地域の新しい産業に活力をもたらせたらいいですね。
一般の人がドローンに触れることができる機会はありますか?
もちろんです。ドローン関連産業を育てていくためには、一般の人がドローンに親しめる環境を作って、ユーザーの数を増やすことが重要です。僕たちの活動拠点でもある『ドローンビレッジ富士』は操縦士を育成する認定スクールでもありますが、施設内には競技用のコースがあって、一般の人も参加できるドローンレースや体験会を随時開催しています。このコースは『日本ドローンレース協会』主催のジャパンカップの会場にもなっていて、大会では全国屈指のドローンレーサーが一堂に会して熱戦が繰り広げられています。最近ではE(イー)スポーツと呼ばれるビデオゲーム対戦など、新しいタイプのさまざまな競技がスポーツとして認知されてきましたが、ドローンレースもいずれはオリンピック種目になってほしいですね。
また、特にドローンを薦めたいのが、女性と子どもです。車の運転など、なんとなく機械が苦手だという女性は多いですが、最近では『ドローン女子』と呼ばれる女性のドローン操縦士によるグループも盛んに活動しています。これまで男性が主役だった力仕事の現場でも、今後はドローンを操る女性が活躍するようになるはずです。また子どもについては小学校でのプログラミング教育の必修化を控える中で、情報や技術を活用する力や意図したことを正しく伝達する力がこれまで以上に求められます。プログラミング的な思考能力を育てる上で、ドローンは楽しみながら学べる教材になります。いきなり本格的な機種でなくても、おもちゃのトイドローンから入るのもいいと思います。安いものではカメラ付きのものでも3,000円程度で購入できますし、重量が200グラム未満のものであれば航空法の規制外となり、資格や事前申請がなくても飛ばすことができます。
今はまだ高価なレジャーというイメージが強いかもしれませんが、いずれは『ドローンは一家に一台』という時代が来ると思います。ドローンを介してデジタル機器を操作したり、物を運んだり、掃除をしたりと、 暮らしを支援するパートナーとしても、まだまだ発展の余地があるのがドローンの魅力です。
本業である造園業と並行してドローン事業や普及活動に励む望月さんの発想力や行動力には驚かされます。
僕は創業から約70年続く造園屋の4代目で、物心がついた頃には父の仕事を継ぐという気持ちがありましたし、今でも自分は生涯造園家でありたいと思っています。ただ、どれだけ経験を積んでも過去とまったく同じ仕事は存在しませんし、もっと工夫したい、さらに深めたいという気持ちが出てくるんです。実はドローンに限らずいろんな資格を持っているんですが、数えてみると60個くらいありました(笑)。といっても独立した趣味ではなく、すべてどこかで本業につながっていて、造園の仕事に活かせるかどうかという観点は常に持っています。
造園は空間をプロデュースする仕事なので、ただ木を植えるだけ、石を置くだけでは仕事になりません。お客さんから茶室の庭を作りたいという話が出れば、実際に茶道や華道を学んで、今では師範にまでなってしまいましたし、庭の緑化を求められれば、その先にあるビオトープの整備やホタルの生育にまで関心が湧いてきます。ハーブガーデンの施工をきっかけにアロマテラピーや野菜ソムリエの資格も取りました。それだけを聞くと、ただ暇な人みたいですけどね(笑)。僕としてはお客さんと5分間会話をするために、その下地として専門的な分野について日々勉強しているという感じです。学びには終わりがありませんから。
ちなみに、最近気になっている分野はプロジェクションマッピングで、デジタル映像の小さなキャラクターが食卓に現れて、今から食べる料理ができるまでを再現してくれるとか、そんな食育事業ができたら面白いですよね。それと、今は自宅で10頭以上のヤギを飼っているんですが、いつかものすごく美味しい自家製チーズを作って販売したいです。いつもこんなことばかり言っているから、暇な人だと思われても仕方ないですよね(笑)。
Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text & Cover Photo/Kohei Handa
撮影協力:浮島ドローンフィールド
望月 紀志
企業組合フジヤマドローン 代表理事
1974(昭和49)年9月2日生まれ
富士市出身・在住
(取材当時)
もちづき・のりゆき / 静岡農業高校造園科、専修学校国土建設学院造園緑地工学科を卒業後、家業である株式会社望月庭園に勤務し、2005年より代表取締役に就任。測量作業などの観点から、小型無人航空機ドローンの可能性に着目し、2016年に初めて購入。一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)認定ドローン操縦技能士及び安全運行管理者となり、富士市内に認定スクール『DRONE★VILLAGE-FUJI(ドローン★ビレッジ-フジ)』を開校。ドローン操縦士の養成に加え、ドローン機体の販売・保守、イベントやセミナーの開催など、ドローンに関する幅広い活動を行う。また、2017年6月には富士市内の有資格者4人で全国初のドローン組合『企業組合フジヤマドローン』を立ち上げ、代表理事に就任。多様な産業分野でドローンを活用する業務を請け負う。同年10月には、災害時にドローンを活用した被害状況の確認、救助活動支援、応援物資運搬などに有償で協力する協定を富士市と結ぶなど、地域貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
ドローンビレッジ富士
富士市中柏原新田106-3
TEL:0545-31-2377
営業時間:平日 9:00〜18:00
土日祝 9:00〜17:00
不定休
Nutshell 〜取材を終えて 編集長の感想〜
望月さんとお会いしてまず感じたのは、事業家としてのフットワークの軽さでした。なにかに可能性を感じた次の日には、もう事業化に向けて動き出していて、いっしょにやれそうな仲間を探し始めていそうな、旺盛な行動力。
本文にもあるようにたくさんの顔をお持ちの望月さんですが、ドローンも華道も茶道も、60の資格も、飼っているヤギも、すべてが本業である造園を中心に有機的につながっています。さらにいえば、自分自身の「何でも楽しんじゃえスピリット」に帰着しているのではないかと想像します。「仕事に必要だからしかたない」なんてちっとも感じてなさそうです。「造園業とは空間プロデュース業」とはご本人の弁ですが、なんでもうまく仕事と結びつけて自分の人生を楽しくプロデュースしている、ある面ワークライフバランスの理想形かもしれません。
「他の人たちがやらないうちに始めることの意味」について、望月さんは起業家らしい視点で語ってくれました。そんな望月さんたちの活動とドローンビジネスは、富士市の新産業のひとつとして、間違いなく注目株です。
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