Vol. 180|鈴川ふれあい朝市ボンマルシェ 山本寿子

ほんとうは密になりたい

ほんとうは密になりたい
人が好きだから

その経験をもとにマルシェと並行して取り組んでいるのが、自宅内で運営する『Bistrot Y(ビストロ イグレック)』ですね。

地元で採れた旬の食材にこだわりながら、フランスで習い覚えた家庭料理や伝統的なお菓子を提供しています。しっかりと手間と時間をかけて仕込んだものをお出しすることはもちろんのこと、生活文化そのものを多くの方に伝えたいんです。ゆったりとした時間の流れを感じながら、美味しい料理や飲み物、そして親しい人とのおしゃべりを存分に楽しむ。それはフランスの人々に限らず、きっと誰もが幸せを感じられるひとときですよね。

本来であれば不特定多数の人が気軽に立ち寄って、その場での交流を楽しめるカフェにするつもりでした。習い事の教室やレンタルスペースとしても使いたいのですが、やはりコロナ禍ではなかなか難しいので、今は昼夜ともに人数を限定した完全予約制にしています。それでもマルシェを通じてこの場所を知ったという方々が連日利用してくださっていて、フランスから持ち帰った可愛い食器や雑貨に囲まれた空間はいつも笑顔で溢れています。いずれコロナが収束したら、一人暮らしのお年寄りや学校帰りの子どもたちもふらっと入ってきてお互いに言葉を交わせるような、地域に開かれた空間にしていきたいです。

ビストロイグレック(小物)

コロナ禍にありながら、何事にも明るく前向きな山本さんの姿勢が多くの人を惹きつけるのでしょうね。

みんなをまとめてわいわい盛り上げることは、若い頃から大好きでしたね。学生時代はテニス部の部長を務めて、県東部大会優勝を経て東海大会出場を達成できましたし、わが子の運動会では応援しながらスタートからゴールまで子どもと一緒に走ってしまって、『子どもよりお母さんを見ている方が面白い』って言われました(笑)。地域活動やPTAの役員を頼まれても、断る理由がないのでどんどん引き受けてしまうんです。ただ、そこで生じるいろんな作業は夫や娘たちに頼りっきりで、いつも助けてもらっています(笑)。もちろんうまくいかないこともたくさんありますけど、『小さなことは気にしない、なんとかなる!』と思うようにしていますし、布団に入れば2秒で眠れてほとんどのことは忘れてしまうので大丈夫です(笑)。

そもそも高齢化率の高いこの地域での活動が簡単ではないことは、自分でも分かっていました。まして私は富士市内の別の地区で生まれ育った新参者で、マルシェを始めるにあたっては『やめておいたほうがいいよ』という声も耳に入ってきました。それでもありがたいことに、先の見えないコロナ禍の中でも毎月の開催を心待ちにしてくださる方がいて、出店者さんの固定ファンも増えています。『来月もあるよね?』とか『毎週やってほしい』とか、『この前買った野菜が美味しかったよ』といった声を聞くと、本当に励みになります。

毎回魅力的な商品やサービスを提供してくださる出店者のみなさん、宣伝や駐車場の手配で快く協力してくださる町内のみなさん、そしていつも勢いで走り出してしまう私を温かく支えてくれる家族には、とても感謝しています。この地域で長く暮らしてきた夫の両親が、今ではマルシェの運営に積極的に関わってくれていることも嬉しいです。

私にできる形でみんなを元気にしていくには、この活動を絶やさず続けていくことが第一だと思っています。そのためにはまず自分自身が楽しまないと。せっかく子育てもひと段落した今、おそらくは終の住処になるこの場所で何もすることがないのは寂しいじゃないですか。自己満足だと思われるかもしれませんが、自分が楽しいと感じて全力で取り組んでいることは、きっと周りにもその魅力が伝わっていくはずだと、私は信じているんです。

マルシェの様子6
マルシェから帰る後ろ姿

Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text & Cover Photo/Kohei Handa

山本寿子さんプロフィール

山本寿子
鈴川ふれあい朝市BON MARCHÉ主催

1963(昭和38)年7月7日生まれ(58歳)
富士市出身・在住
(取材当時)

やまもと・としこ / 吉原第一中、吉原高校、静岡県立厚生保育専門学校保育科卒。保育士として6年間の勤務を経て結婚。夫の地元である富士市元吉原地区に半年間住んだ後、転勤に伴いフランス・アルザス地方の都市コルマールで約7年間生活する。フランスのマルシェ文化に感銘を受け、帰国してからは子育てや親の介護の傍ら、商店街のイベントや地域活動に積極的に参加。2019年8月より富士市鈴川東町に転居し、同9月に自宅の敷地内で『鈴川ふれあい朝市BON MARCHÉ(ボン・マルシェ)』を初開催。直後に見舞われたコロナ禍によりマルシェを中断せざるを得なくなる中、2020年10月には『Bistrot Y(ビストロ・イグレック)』を開業。フランス仕込みの家庭料理や生活文化を提供しながら、地域を元気にすることを日々考え続けている。

鈴川ふれあい朝市 BON MARCHÉ(ボンマルシェ)

毎月15日開催
会場:富士市鈴川東町8-4(駐車場は鈴川三丁目公園内)
TEL:090-6645-4067(山本)

鈴川ボンマルシェ地図

Bistrot Y(ビストロイグレック)

利用は3日前までの完全予約制(2テープル6名まで)

https://bistroty.jimdofree.com/

ビストロイグレック看板

Nutshell 〜取材を終えて 編集長の感想〜

あなたはどんな場所での買い物がいちばんワクワクしますか?最近はネットショッピングが伸びていますが、時代を遡っていけば大型量販店、商店街、さらに古くは市場(マーケット)と、買い物の場は社会とともに移り変わってきました。

もちろん便利になったのは間違いないのですが、でも昔ながらの買い物スタイルってもっとこう「体験自体がいきいきとして楽しかった」ような気がしませんか?商店主との会話が弾んだり、ほかの買い物客と顔見知りになったり。いつでも何でも手に入るわけじゃないけど、その代わりに行く度に違うものが置いてあって予想外のものと出会う喜びがあったり。もしかしたら年配の方々のほうが、若い世代が知らない「買い物の楽しみ方」をよくご存知なのかもしれません。

10月15日の朝。まさに「待ってました」とばかり、人々が鈴川のボンマルシェに集まってきます。近所から歩いてくるおばあちゃんもいれば、遠方から車で来る家族も。挨拶を交わしあう人も多く、山本さんのマーケットを毎月の恒例行事としてみんなが楽しみにしていることが伺えます。そしてみんなに声をかけて回る山本さん。本文には映画『ハウルの動く城』のモデルとなった街のことが出てきますが、このマルシェにもどこか、ジブリの世界に出てきそうな温かな人のつながりを感じます。

「新しい資本主義」なんてことが言われますが、高齢化が進み、脱車社会・脱大量消費・脱成長へと向かっていく地域社会において、こんなマルシェの親密さにこそ大きなヒントがありそうです。

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