焼肉玉起園 川本哲春さんとお座敷

川本哲春さん

玉起園・川本哲春さん

モノものがたり 第9回
「世代を超えて愛される理由」

富士市森島の焼肉店、玉起園といえば厚切りタンが有名だ。このタンを求めて市内外から客が訪れ、コロナ禍以前は東京からやって来る人もいたという。メニューに加えたのはひょんなことがきっかけだったと店主の川本哲春さんは話す。

「タンが大好物の友人から『大きなタンが食べたい』とリクエストがあり、冗談のつもりで思いっきり厚切りにして出してみたら思いのほか好評でした。牛の舌は舌先にいくほど固くなりますが、うちのタンは真ん中から喉奥の方を使うので、口ざわりが良くて柔らかいのが特徴です。また、タンに使う部位にはゴムのような太い血管が2本通っていますが、うちではほぼ除去しています。手間がかかりますが、お客さんには一番美味しい方法で提供したいですから。」

名物の厚切りタン

名物の厚切りタン

 

客席の鉄板で調理をする焼肉店では、他の飲食店に比べ客席まわりの配慮が多い。鉄板に油を塗って用意し、網の取り替えをし、営業終了後も洗浄が続く。

「客席や備品の準備も手間がかかる仕事のひとつです。子どもの頃から人手が足りなくなると、親に呼ばれて洗い場の手伝いをしていました。」

両親のやっていた店を哲春さんが継ごうと決めたのは、中学生の頃。手伝いをしながら、いつかは店をやるのだろうと思っていたという。親から強いられたわけではなく自らの決心だったそうだ。高校3年生の夏に部活の陸上部を引退してから、店を本格的に手伝い始めた。卒業後は調理師の資格を取るために専門学校へ通い、夜は店の調理場に立った。

「最初は包丁も使えなかったので、スープの味付けを教えてもらって仕込みをしていました。父は寡黙な職人肌なので言葉で教えてもらった記憶はほとんどなく、見よう見まねで覚えていきました。たくさんの肉の善し悪しを見てきて、雄牛と雌牛の区別もできるようになり、真空状態で仕入れた肉でも見た目と弾力で良い肉かどうか判断できます。」

玉起園は、昭和56年に創業し今年で丸40年となる。25年前に現在の場所に移転し、昨年に哲春さんへ代替わりをした。店づくりにおけるこだわりは、聞いて納得のものだった。

「あえて掘りごたつにせず、広々とした座敷スペースで安心していただくことがこだわりです。うちは小さなお子様連れが多いので、目を離した隙に堀に落ちてしまっては危ないからです。座敷は通常よりも広めにスペースを確保しているので、火から離れたところで子どもを寝かせることもできます。掘りごたつにしてほしいという要望もたしかにあり、膝が悪いお客さんには申し訳ないのですが、子どもたちのことを思うとこれだけは守っていきたいんです。」

客室は広々とした座敷

客室は広々とした座敷

 

現代では、座敷の店は掘りごたつになっていることが多く、利便性も感じる。けれど、高校生のときから店に立ってきた哲春さんだからこそ家族構成までよく知っているお客さんも多く、その人たちのために配慮された店づくりになっているのだろう。

「この場所で25年やってきて、子どもの頃に親に連れられてきた子が、大人になって自分の家族を連れてくるようになりました。これからも、みなさんに安心して食事を楽しんでほしいので、うちは子ども優先なんです。」

手間ひまかけた提供方法と、小さな子ども連れを大切にした店づくりは、どちらも哲春さんのこだわりであり、長く通ってくれるお客さんたちのニーズをよく観察しているからこそ見えることなのだろう。だから地元の人から愛される店になるのだと感じた。

(ライター/針ヶ谷あす香)

焼肉 玉起園
富士市森島102-2
TEL:0545-63-2316 

公式Web

 

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