Vol. 181|児童発達支援・放課後デイサービス ぱれっと 代表 後藤快枝
誰もが個性としての
凹凸を抱えている
発達障害は昔と比べて増えているのでしょうか?
学校に支援員として入ったこともありますが、現在、何らかの支援が必要な子はクラスに2、3人はいる状況です。でも、30人を担任が一人で見るので目が行き届かなかったり、親が気づかなくて必要な支援が本人に届かないことが多いんです。それに、世間体を気にするあまり、その子に適した指導をしてくれる支援級ではなく、普通級に通わせ続けるということも起こってくる。
そういう子たちはどうなるかというと、脳の構造上難しいことがあるのに、その特性を理解してもらえないがために、先生や親、祖父母から『怠けているだけだ』とか『不真面目だ』と怒られてしまうんですね。かわいそうなことに、繰り返し怒られることで自己肯定感は下がりますし、学校で大きなストレスにさらされ家庭で暴れたり、不登校やうつにつながっていく。こういう子は、早期に分かってあげ、特性に合わせた学び方をさせてあげる必要があります。
将来自立できるよう、3、4年生までの学力はしっかりと定着させないといけませんが、一人ひとり理解しやすい方法は異なります。例えば漢字を覚えるという学習ひとつとってもやり方はさまざま。お手本を短冊状にして一行ずつ見ながら書けば分かりやすいという子もいれば、ひらがなを交えてページを埋めていくと負担なく身につくという子もいます。『普通のやり方では難しそうだ、じゃあどういう方法ならわかるか』ということを考え、工夫していく。それが“支援”なんです。不注意や多動といった特性があっても、本人に自信がつき周囲から認めてもらえれば、その子の持ついいところを活かして仲間と一緒に楽しく学校生活を送ることは十分にできるんです。
これだけ特性を抱える人が増えている今の時代、発達障害への理解が広まることはとても重要です。モデルで俳優の栗原類さんは、発達障害であることを公表し、その特性や困っていることをメディアで発信していますが、彼のような人が表に出て、啓発してくれることには意義があると思います。どんな子どもたちも自信を持って笑顔で過ごせるよう、私たちもできる支援を続けていきたいと思っています。
後藤さんの考える、これからの社会のあり方は?
たいそうに聞こえるかもしれませんが、これからは共に生きる“共生の時代”です。普通とか普通じゃない、ではなく誰にも個性としての凹凸があります。発達障害とは、その凹凸の差が少し大きいということ。それを欠点ではなく、個性や特性だと捉えることが大切だと思います。
子どもに限らず、凹凸を抱える人の中には、空気を読むのが苦手なタイプもいます。例えば職場でお土産に『ご自由にお取りください』と書いてあればすべて持っていってしまったり……。これに対して周りができるのは、陰口を言うことではなく『おひとつどうぞ』と言葉を変えてあげることなんです。
人を支援する仕事をしていながら私も、事務作業が大の苦手。役所関係の書類を作るのにいつも四苦八苦して、スタッフに助けられてばかりです(笑)。相手の特性を理解した上で、どうやったら一緒に気持ちよくやっていけるだろうかと工夫してみる、そんな人がひとりでも増えてほしいと願っています。凹凸を抱える人たちは、いわゆる“普通”の人の何倍ものエネルギーを使って社会生活を送っています。そういう理解がもっと広まって、得意なことは活かし合い、苦手な部分は助け合って共に生きられる社会になっていくといいなと思います。
Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text/Chie Kobayashi
Cover Photo/Kohei Handa
後藤 快枝
児童発達支援・放課後デイサービス ぱれっと 代表
1954(昭和29)年7月23日生まれ(67歳)
富士宮市出身・在住
(取材当時)
ごとう・よしえ / 富士宮第一中学校、富士宮東高校、静岡県立厚生保育専門学校保育科卒業。富士宮市内の保育園で保育士として22年間勤務。退職後は保育士時代の経験を活かし、子どもの自由画から心の変化や状態を読み取り、よりよい子育てにつなげる『キッズ・アート・クラブ』を立ち上げ、多くの親子に寄り添う。保育士時代、勉強会などで共に学んだ全国各地の仲間が、それぞれの園に自由画を取り入れたため、その講師として招かれたり、経験を買われ若手保育士の相談にも乗っている。2020年4月には、富士宮市内に未就学児から高校生までを対象とした児童発達支援・放課後デイサービス『ぱれっと』を開所。教員免許や看護師資格を持つスタッフと共に、困難を抱える子どもとその親への適切な支援を提供している。日本教育カウンセラー協会会員、創造美育協会会員。
児童発達支援・放課後デイサービス ぱれっと
富士宮市星山983-4 TEL:0544-55-1845
- 児童発達支援(小学校入学前の未就学児) 9:00~12:00
- 放課後デイサービス(小学生から高校生) 下校~17:00
ご利用にあたっては富士宮市・富士市ほか各自治体の発行する受給者証が必要となります。
キッズ・アート・クラブ
自由に絵を描いて、子どもらしさをのびのびと伸ばすアート教室。2歳ぐらいから、誰でも対象です。
富士宮市星山1019-25
TEL:090-3382-0408
月2回/月謝1人4,000円
体験会随時募集中
Nutshell 〜取材を終えて 編集長の感想〜
昔と較べて子育ては楽になっているのでしょうか。あるいはより大変になっているのでしょうか。公的支援や職場の育児休暇などが利用しやすくなったとか、科学的な育児メソッドが確立してきたとか、分からないことがあってもすぐにネットで調べられるという点では、現代の子育ては間違いなくやりやすくなっているはずです。しかし一方で、少子化と「正しい子育てをしなくちゃ」というプレッシャーの中で、親たちは子どもに「欠陥のない子であること」を期待し、また自らへ「完璧な育児をしなければならない」という過剰な縛りをかけてはいないでしょうか。兄弟がたくさんいて、大人になってからの食い扶持もなんとかなった昭和の時代のほうが、そんな完璧主義に陥らずにおおらかに子育てできていたのかもしれません。
「落ち着きのない子」とか「他人となじめない子」といった、“普通”の子よりもちょっと手のかかる子どもたちは、昔だったら“規格外”と見られていました。現代ではADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉症スペクトラム)といった症名も付き、より脳科学的な視点からの対処法、能力の伸ばし方もある程度明らかになっていて、後藤さんの「ぱれっと」のような施設も各地にあります。しかし偏見や知識不足のため、まだ必要な親子に必要な支援が届いているとはいえないようです。「みんなが同じ、普通じゃなくたっていい」「欠陥だって個性」と社会が多様性を包容できるところまでは、あとほんのもう一歩なんじゃないでしょうか。
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