Vol. 141|奇石博物館 副館長 北垣 俊明

北垣俊明さん

道端の石ころから
地球の歴史が見えてくる

北垣さんご自身と石との出会いは?

50年以上前まで遡ります。小さな頃はいわゆる昆虫少年で、虫を捕まえて観察するのが大好きでした。通っていた幼稚園の近くに鳥取県立博物館があって、そこに毎日のように足を運んでいたことで自然科学全般に興味を持つようになりました。

石との出会いとしては、当時近所に住んでいた中学生の男の子の存在が大きいです。その子も石が好きで、年の離れた幼い私にいろんなことを教えてくれました。彼の家にはお父さんが集めたという珍しい石がたくさんあって、そのコレクションを見せてもらった時、石の世界はなんて面白いんだろうと衝撃を受けました。

それともう一つ、私のルーツになっているのが水晶との出会いです。同じく幼稚園の頃、自宅近くの河川敷で見つけた大人の拳くらいの大きさの石に穴が開いていて、その空洞の中にコロコロと転がる小さな水晶が入っていたんです。ただ、中の水晶は見えているのに、穴が小さくて石を振っても出てこないんです。その時に感じた自然界の不思議さや石の持つパワーのようなものは、今でもはっきりと覚えています。ちなみに、水晶が入ったその石は家に持って帰ったはずなんですが、その後行方不明なんです。外見はただの石なので、もしかすると庭で父が育てていた盆栽の一部になっているのかもしれません(笑)。

プライベートでも富士川の支流へ砂金採りに出かけるほどの石マニア

プライベートでも富士川の支流へ砂金採りに出かけるほどの石マニア

幼い頃の感動や興味をずっと変わらず育んできたというのが素晴らしいですね。

それ以降はずっと石ひと筋で、進路を決める際も鉱物鉱床学を学べる大学を選びました。大学卒業後は6年間ほど研究室に残って、教授の手伝いをしたり学生に教えたりしていましたが、そんな中、奇石博物館が学芸員を募集していることを知りました。それまでこの地域との直接的な関わりはなかったのですが、望んでいた『石』と『博物館』の両方を備えた仕事で、迷うことなく応募しました。ただ、大学での日々も有意義なもので、自らの研究を深めることができましたし、子どもたちに自然科学の魅力を伝えるという今の仕事にも役立つ貴重な経験でした。

私にとっての石、特に鉱物の魅力は、自然の産物でありながらどこか無機的な美しさの中に計算され尽くした幾何学性を持つ、人智を超えた結晶だという点です。たとえば、好きな石の一つでもある『夫婦(めおと)水晶』は二つの水晶がハート型に結合した日本式双晶(そうしょう)と呼ばれるもので、お互いの中心軸のなす角度がどれも必ず84度33分になっています。また、石にはとてつもなく長い時間をかけて生成されるものや、化石や隕石など天文学的な偶然によって現代の地球にその姿を現わすものもあり、それぞれに奥行きのあるロマンを感じます。

アメリカ・ワイオミング州で恐竜発掘調査中の北垣さん

アメリカ・ワイオミング州で恐竜発掘調査中の北垣さん

ハート型の『夫婦水晶』は北垣さんお気に入りの石

ハート型の『夫婦水晶』は北垣さんお気に入りの石

石から見える世界はどこまでも広く深いのですね。

石の世界の広さや深さ、面白さを普及する上で大切になるのが、まさに私たちが提唱している『奇石』的な視点で、人それぞれの奇石があっていいんです。

当館では毎年6月初旬に富士川で『河原の石ころ観察会』というイベントを開催していますが、河原に転がる石や富士火山溶岩流を観察する子どもたちには、あえて岩石名を教えないようにしています。見た目や手触りを頼りに、まずは子どもたち自身で石に名前をつけてもらいます。黒い斑点のある花崗岩(かこうがん)なら『ごましおにぎり石』といった感じです。これをフィールドネームと呼んでいますが、そこで『面白い!なぜ?もっと知りたい!』と感じてもらえれば、その石の正式名称や学術的な情報を知る機会は、後からいくらでもあります。自由な感性で石と向き合いながら、自ら考えるという過程が重要で、そこでの感動や発見の一つ一つが、自然科学への芽生えなんです。私たちはこれからもさまざまな企画や展示を通じて、多くの人々を石の世界、自然科学の世界へと誘い、導いていく活動を続けていきたいと考えています。

Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text & Cover Photo/Kohei Handa

北垣俊明さんプロフィール

北垣 俊明
奇石博物館 副館長/学芸員

1961(昭和36)年9月16日生まれ
鳥取県鳥取市出身・富士宮市在住
(取材当時)

きたがき・としあき / 日本大学文理学部で応用地学を専攻し、卒業後は6年間同大学に残り、副手を務める。1990年より奇石博物館に勤務。その後、学芸員となり、副館長として現在に至る。豊富な知識と経験に基づいた館内解説は好評で、この他にも地元の小中学校で年間50〜100時間の出前授業や各種ワークショップ、広報担当などを務め、石の世界の魅力を発信し続けている。

奇石博物館

富士宮市山宮3670
TEL:0544-58-3830

http://www.kiseki-jp.com/

 

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。