コロナの片隅で(3) 富士の山ビエンナーレ 谷津倉龍三さんに訊く
『この街が止まらないように、』 人と人をつなぐ現代アートの祭典
富士市・富士宮市・静岡市清水区(旧蒲原町)の会場で隔年で行なわれている『するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ』。4回目となる今年は、新型コロナの影響で難しい判断を迫られたが、10〜11月の開催へ向けて舵を切った。
本イベントはアーティストが当地に一定期間滞在しながら、土地から受けたインスピレーションを作品づくりに活かすもの。制作過程を間近に見られるとあって、回を重ねるごとに県内外からの来場者は増えている。今回は実行委員長の谷津倉龍三さんに、本年開催の意義と「地元+現代アート」の可能性について話を伺った。
実行委員長・谷津倉龍三さん
今年のキャッチフレーズ『私たちの愛するこの街が止まらないように、』に込めた思いは?
じつはこの言葉、コロナ以前に決まっていたんです。富士川や東海道の存在により、古くは交易の主要地であったこのエリアは現在、大都市を結ぶ単なる通過点になりました。独自の文化が風化し、土地の歴史が詰まった建築物が顧みられなくなれば、街が止まってしまうという危機感から出た言葉です。それに加え、過去3回の開催を経て、『期間中、街に若い人が来てくれて嬉しい』や『こんな建物があったのを初めて知った』など、地元の人の思いの高まりを感じ、着実に根付き始めた今、簡単にコロナ=中止とは考えられませんでした。
作品の展示会場は築100年以上の古民家や空き店舗、文化財登録されている建物などです。作品を展示する場所を求めている現代アーティストのニーズとマッチして、アートの力で建物にもスポットライトが当たります。来場者が作品を鑑賞するのと同時に、その建物や土地の歴史に触れるのもこのイベントの醍醐味です。それに若手アーティストにとっては、第一線で活躍中のキュレーターから直接細かいアドバイスをもらえるというメリットもあります。アーティスト同士がつながり、活躍の場をさらに広げるきっかけとなるこの機会を、今年も提供したかったのです。
コロナの影響で変更を余儀なくされた点は?
ディレクターやキュレーターとは、インターネットのビデオ通話での打ち合わせになりました。実行委員会も今までのようには集まれない状況ですね。また、会場の中にはご高齢の方の自宅もあるのですが、不安を払拭するため今年は会場を変更したり、打ち合わせの回数を減らすためアーティストの公募はやめて、20名の招聘作家のみにするなど、例年とは異なる対応をしています。
今年も海外からアーティストが参加予定で、シンガポールの大学で教鞭を執るアーティストは大学生たちと来日して県内の学生とコラボする予定でしたが、大学側の渡航の許可が下りず、残念ながら来日ができなくなりました。自治体管理の会場もあり、『県文化プログラム』認証のイベントでもあるので、今後の感染状況次第では協議の上で規模を縮小したり、やむを得ず中止が決まるかもしれません。しかしその場合でも、何らかの形で発信できるよう、制作過程は動画で撮っておくなど並行して対策を練っています。
現代アートの可能性、街とアートの将来像などについてお聞かせください。
期間中は地元の人たち、県内外からの来場者、土地の歴史や文化を外からの視点で掘り起こして作品に昇華するアーティストなど、さまざまな立場の人が関わり刺激し合うことで街が活気づきます。地元の人にとっては、街の魅力を再発見したり誇りや愛着を深める機会です。
この街には人知れず眠っている文化資源がまだまだ多いですし、歴史的価値のある建築物を再発見して、いい形で活用できる方法も模索中です。人と人がつながって変化し続ける魅力的な街には、人が集まります。コロナによりテレワークが浸透して、好きな場所に住めるとなれば、アートを足掛かりにこの地域へ移住を促進することもできますよね。
『ビエンナーレ』によってできたアートを楽しむという下地を今後どう応用していくか。現在、富士市本町商店街では現代アーティストが滞在居住しながら作品づくりをする『マイクロレジデンス事業』(FAH=Fujinoyama ART HUB)も進めていて、現代アートが街を形成するひとつの手段になるよう、その拠点づくりを実現していきたいと思っています。
(ライター/小林千絵)
するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ2020
10/24(土)から11/23(月・祝)期間中の土・日・祝日(全12日間)
10:00〜16:00 観覧無料
富士本町、富士川、蒲原、富士宮の4つのエリアの各会場にて開催。
※コロナ感染対策のため開催日程・場所が変更になる場合がありますのでご了承ください。
【お問い合わせ先】
富士の山ビエンナーレ事務局 富士市岩淵41(株式会社ヤツクラ内)
TEL: 0545-81-0063
公式Web
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。