60代ライターの散歩道【浮島ヶ原自然公園】

浮島ヶ原自然公園

アシ原と木道

お出かけレポート

この季節、秋と聞いて真っ先にイメージする言葉には、例えば食欲、読書、実りなどがある。スポーツ(散歩)もある。富士市東部の浮島ヶ原自然公園へ出かけ、ゆっくりと歩いてきた。

人の手をできるだけ入れない浮島の原風景

国道1号バイパスを富士市から沼津方面へ向かい、中里交差点を左折した。電車ならJR東海道線・東田子の浦駅の北方に、浮島ヶ原自然公園はある。富士市のウェブサイトによると、ここは自然景観を維持するための特殊公園(風致公園)で広さは4.2ヘクタール。東京ドームよりも少し小さいサイズか。駐車場は無料だった。早朝に訪ねたのだが、自然観察が趣味の人だろう、望遠レンズを携えた男性が県外ナンバーの車にちょうど乗り込むのに出くわした。

アシ原の中に木道が長々と続く湿原は、さまざまな動植物が生息する場所であり、富士山ビューポイントとしても知られている。自然なままの管理のためか、にぎやかな夏の残影が薄れたとはいえ、アシや雑草が元気に背伸びしていて、木道の端まではみ出ていた。これからさらにひんやりとした空気に湿原は包まれ、ひっそりと静かな時間が流れるのだろう。

管理棟は9時から17時まで開いていて、おもに土日祝の10時から15時までは、希望すれば富士自然観察の会のガイドさんが案内してくれる。定期的に自然観察会も開かれているという。私は手に触れられる近さに咲いていた可憐な花を写真に撮ったが、ガイドさんがいれば、いろいろな特徴を詳しく教えてもらえただろう。木道には花の咲くポイントごとに説明プレートが添えつけてあった。ただ残念なことに、多くの草花は咲き終わっていた。

浮島ヶ原自然公園

看板は手づくり風

浮島ヶ原自然公園

可憐な小花を発見

 
動物はいるかと見渡したが気配がない。そして、ふと、どかどかと歩く自分の足音に気づいた。動物も昆虫も、人間の足音がすれば姿を隠すのは当然だ。ならばと、息を殺して抜き足差し足、静かにゆっくりと歩いた。しばらくゆくと、一匹のカニを発見。ヒザを折って水場をのぞくと、半ば水の引いた湿地に多くのカニがじっとしているのに出くわした。おお、色鮮やかな体色のクモが芸術的に糸を張り、ハンターのようにじっと獲物を待ち構えてもいるではないか!

軽い運動気分で訪れたのに、散策はいつしか虫眼鏡を携えた個人的な自然観察会のように変化した。木道を牛歩で進み、初めて見る赤褐色の花について、取り出したスマホで調べ、それがワレモコウらしいと知って感嘆したり、カワセミはいないかと、野鳥観察家のように上空を見やったりした。

銀ねずのかわたれ時には野鳥も飛来するのだろうが、空はとうに青んでいて、明るい日ざしが木道を照らしていた。付近には工業団地があり、バイパスを走る車の量が増えた気がしたが、高いアシの背に目隠しされたような場所だからこそ、貴重な動植物がここに生息できるのだろう。

見ようによっては放任な湿地は、生物多様性の宝庫であり、我々の心を癒してくれるフィールドでもある。不用意な開発、ゴミの投棄、訪れる人の踏み込みなどによって、たやすくダメージを受けやすく、一旦荒れると生態系は崩れて、回復するのには時間がかかる。エコ・フレンドリーな対応が大切だ。

たぶん、この浮島ヶ原自然公園がいちばん華やぐ時期は春や初夏だろう。この日はアシをそよがせる風もなく、いつまで経っても誰も来なくて、静けさだけが相棒だった。自然界に生息する動植物との出会いは、春夏秋冬の気候や偶然に左右される。そこに楽しみを見出して、季節を通して愛好家は足を運ぶのだ。

浮島ヶ原自然公園

よ~く見るとカニ

浮島ヶ原自然公園

これはシモツケか

(ライター/佐野一好)

浮島ヶ原自然公園

富士市中里2553-8
TEL:0545-55-2795(富士市役所みどりの課)
駐車場利用は8:10~17:55

富士市役所みどりの課

富士自然観察の会

浮島ヶ原自然公園地図

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。