60代ライターの散歩道【天然記念物・柿田川の公園】
木製の桟橋・八つ橋
お出かけレポート
春は卒業シーズンだが、ようやく定年して自由人になったなら、ゆうゆうと旅に出たい、と思うだろうか。例えば高知県の四万十川は、アウトドア好きには憧れの清流だ。先日そんな情報を検索していると、「柿田川」の名が目に入った。灯台下暗しとはこのことで、隣町と呼べる清水町の柿田川は、国の天然記念物であり、四万十川や岐阜県の長良川とともに、日本三大清流の一つと呼ばれていた。
園路を歩くだけでも楽しい
美しい日本の湧水公園
沼津市と三島市にはさまれた駿東郡清水町を流れる柿田川は、日本の名水百選などにも選出されていた。さっそく柿田川公園へ向かい、駐車場に車をとめてすぐ、一年ぶりの河津桜に見とれた。入口広場には観光案内所、みやげ店、蔵造りの茶房ほか、園内には清流を眺められる展望台、京都の貴船神社から分社された水と縁結びの神社などがあるから、他県からの観光客も散見された。
車の多い国道1号線沿いで、ショッピングモールのサントムーン柿田川や、有名なうなぎ店も近い市街地に、こんなに広くて閑雅な場所があったのかと、少したまげた。この柿田川公園の一部は、なんと徳川家康が、かつて隠居所に計画した泉頭(いずみがしら)城の跡だそうだ。
最初は柿田川の最上流部に位置する第1展望台へ。森林浴をしながら園路を歩き、急な階段を下った。視界を川面へ向けると、陽光が川底までを透かし、湧き水が生まれたばかりの赤ん坊よろしく、砂間に元気なうぶ声を上げていた。一方、さらさらと優しく湧く水もある。たぶん、川底の三島溶岩流の形状次第で違いが出るのだろう。柿田川の源は、約40キロ北の富士山に降った雨や雪だ。全長は約1.2キロの、日本一短い一級河川。年間水温は約15度で、さぞや冷たいだろうと思いきや、水汲み場で手に取ると、意外にも温かかった。ほぼ無菌でミネラルが多いことから、清水町、沼津市など県東部の飲料水はここの湧水だそうで、ポリ容器に水を汲む住民の姿があった。
続いて第2展望台へ。ここでは神秘的なブルーホールを見下ろせた。満々と水をたたえた謎の穴は、直径5メートル、水深4メートルくらいか。水面は、周囲の樹木を映す水鏡となり、移ろう陽光や見る角度によって、色合いが変化する。果たしてその正体は何かと思い調べると、かつての紡績工場の井戸のなごりだそうだ。
ところで、カップルに耳寄りな情報を一つ。先に触れた観光案内所で恋の行方を占う「水みくじ」が買えるのだ。占う場所は第2展望台から歩いてすぐの神社だ。参道脇にご神水が入った水桶があり、そこにくじを浸すと、恋を占える。神社参拝の後は、木製の桟橋が入り組んだ八つ橋をそぞろ歩き、ビオトープを満喫した。富士山の雨や雪は地下水となり、数十年かけて地上に出てくる。柿田川の豊富な流れは狩野川と合流し、駿河湾に注ぐ。八つ橋から清流を見つめていると、ノスタルジーを感じたし、「水積もりて川を成す」のことわざ通り、最初の一歩は小さくとも、努力を重ねて大きくなる人の人生のようだなあ、とも思った。
清らかな湧水公園は、涼を求めるこれからの季節が本番だ。色とりどりに花が咲き、貴重な昆虫、魚、水中植物も観察できるだろう。見どころは数あるが、園路をただ歩くだけでも楽しいはずだ。年甲斐もなく気分が春めいた私は、帰りに奮発し、市街地のうなぎ屋にも寄ってしまった。運動(散歩)後のご褒美はやはり格別だった。
(ライター/佐野一好)
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