桜咲く

桜

樹木医が行く! 第37回

今回は季節柄、桜の話題を書きたいと思います。私事ですが、今年3月に大学受験をし、4月から静岡県立大学大学院博士課程に進学することが決まりました。ここでもひとつ桜が咲きました。大学では樹木の健康診断手法について研究をする予定です。

それはさておき、今このコラムを書いているのは2023年3月20日です。すでに静岡では昨日、桜の開花宣言がありました。ただ、今年一番開花が早かったのは東京でした。最近は東京が最も早い開花となることが多い気がします。10年以上前はたいてい静岡が一番だった記憶がありますが、最近は静岡よりも寒い地域での開花が早い傾向にあります。じつは今年、桜の開花が例年よりも早まるだろうと私は予想していました。理由はただひとつ、今年の冬はかなり寒かったからです。実際、現時点で開花している地域のすべてで、平年に比べて圧倒的に早かったようです。

なぜ冬が寒いと桜の開花が早いのか?

じつは桜の花が咲くには「寒い冬」が必要なのです。桜の花芽(将来、蕾となる芽のこと)は前年の7〜8月に形成されます。その後、秋の終わりに寒い冬を越すための休眠期に入ります。そして、ここが一番重要なのですが、真冬に一定期間、厳しい寒さにさらされることにより、休眠から目覚め(専門用語で「休眠打破」といいます)、春の開花に向けて活動を再開します。つまり、一定期間寒いことがとても大切なのです。そのため暖冬の場合、静岡のような温暖な土地ではこの休眠打破がおかしくなり、なんとなく開花が遅くなります。人間でも夜ぐっすり眠り、朝シャキッと起きた日は体がスッキリして、バリバリ働くことができますが、ウトウトと眠り、ダラッと起きた日は体もだるく、けだるく働くことになります。これは桜も同じで、春までぐっすり眠り、シャキッと目覚めてもらう必要があるのです。

桜の開花を予測する計算式があります!

「桜の開花400°Cの法則」といったりします。これは2月1日に桜が目覚めた(休眠打破した)という前提のもと、以降の毎日の平均気温を足していき、合計で400°Cになる日が開花日、という計算方法です。この計算式は休眠打破を前提としているので、今年のように寒い冬には当たりやすく、暖冬の年ははずれやすいと思います。桜の開花が早くなるには、しっかりと寒い冬を迎え、その後だんだん暖かくなっていくことが条件です。

温暖化が桜の開花をおかしくしている?

ここまでの話で、温暖化が桜の開花に悪影響を与えている?と感じた方も多いかと思いますが、その通りです。4月1日時点の桜開花ラインを1956〜1985年と1991〜2020年の期間で比較した図があります(図表1)。結果として確実に北上しています。

(図表は環境省「COOLCHOICE」ウェブサイトより引用(画像含む) 『地球温暖化で桜の開花に異変!?日本列島でいっせい開花も?』)
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/weather/article06.html

環境省「COOLCHOICE」ウェブサイトよりhttps://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/weather/article06.html

図表1

環境省「COOLCHOICE」ウェブサイトより https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/weather/article06.html

図表2

さらに有名な話がひとつあります。2020年に観測史上初めて、福島県での桜の開花が鹿児島県よりも早くなるという逆転現象が発生しました(図表2)。温暖化が原因といわれています。このまま温暖化が進むと、静岡での桜の開花が東北地方より遅くなるという将来が、現実のものとなってしまう可能性があるのです。

今のうちに、温暖化を何とかしないといけないと真剣に思う、今日この頃です。

 

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。