60代ライターの散歩道【沼津御用邸記念公園と周辺】
見とれた古い窓ガラス
お出かけレポート
歩いた後に好物の団子を食べたくて、ひっそりと静かな沼津御用邸記念公園、そして島郷海水浴場を歩いてみた。個人的な感想だが、沼津市にある沼津御用邸記念公園の周辺は、神奈川県の葉山町に似ているかな、と思う。どちらにも御用邸があり、遠浅の海水浴場があり、手漕ぎボートが風景にはまり、山までも近い。ああ、葉山でなく鎌倉?そういえば、鎌倉にはハイキングコースの鎌倉アルプスがあるが、沼津にはもっと険しい沼津アルプスがある。
恵まれた環境に感謝しながら人生を謳歌しよう!
沼津御用邸は、明治26年に大正天皇(当時皇太子)のご静養先として沼津市下香貫島郷(しもかぬきとうごう)に造営された。大正天皇は漢詩を詠み、子煩悩で、人間性が豊かだったそうだ。第一次世界大戦やシベリア出兵などがたまゆらあったにせよ、ご来光のように玉響(たまゆら)な大正時代は、おおむね民主的でモダニズム(近代化)が暮らしに浸透したハイカラな時世だった。往時をしのぶことができる沼津御用邸記念公園は、平成28年に景観の一部が旧沼津御用邸苑地として国の名勝に指定されている。
木造家屋の受付で入園料100円を払ってから、広々とした庭園をゆっくりと巡った。春待つクロマツ群が潮の香を巻き、無数の松笠がちらばる砂場に、陽光をまだらに落としていた。庭園散歩はいいものだ。気分がすっとする。夏は避ける陽射しが、ときおりの凩(こがらし)のなかでは頼もしい。建物の中には入らなかったが、古風で美しい窓ガラスなども外から鑑賞した。沼津市には観光スポットが数あれ、静けさに包まれた庭園の筆頭はここだろう。もちろん、西洋水仙、藤、紫陽花(あじさい)、菊などの花々の季節、あるいは各種イベントの期間はにぎわうはずだ。園内には沼津市歴史民俗資料館があり、市民のむかしの生活道具や漁具を知ることができた。約1時間歩くと空腹を感じた。そこで、プロ棋士の藤井聡太さんも食べたという富士山キーマカリーを大正ロマン食堂『娯洋亭』(ごようてい)で食べた。近くには馬屋を改装した喫茶『主馬』(しゅめ)もあった。散歩途中の一服、これがたまらない。
島郷海水浴場は記念公園に隣接してある。この日はあいにく、海へと続くモダンな歩道の先は工事中で、封鎖されていた。工事告知を見逃した自分が悪いのだが、あらあら……と思いながら来た道を引き返し、記念公園の南側へ迂回した。皇室に愛された浜へ向かう途中、小鳥のさえずりが松林に響いて、森林浴気分を味わった。まだ寒いからか、遠浅の海に人影は数えるほどで、おだやかな波がただ寄せていた。
島郷海水浴場は夕日が美しい隠れた名所でもあるそうだ。夕方まで時間があり、夕日が見られず残念に思う。趣味のビーチコーミングをしながら砂浜を歩いて、白いシーグラスをいくつか見つけた。松原越しに富士山を探したが、雲が隠して見えなかった。だが、例えば、他県の知人が訪ねてきたとき、あるいはホームステイで海外の人を受け入れたときなど、ここへ連れくればいいかな……と思う。そうなれば当然、沼津御用邸は絶好の観光スポットだし、沼津港の魚河岸は目と鼻の先、我入道の渡し舟も魅力的だろう。
散策のしまいは、家族へのみやげだった。記念公園の北側の沿道にあるリヴァージュ洋菓子店で、こしあん団子に蜜ダレをからめた『雅心だんご』を買った。この団子が今日の散歩のゴールであり、好物を手に嬉々として家路についた。いまに桜が咲く。待ちきれないほど待ち遠しい。恵まれた地元の環境に感謝しながら、これからも歩こう。
(ライター/佐野一好)
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