新年にまつわる日本文化あれこれ
さくらの音色 第3回
新年おめでとうございます。今年は辰年ですね。何か良いことがありそう。皆さんの幸せも龍が如く昇っていくことを願っております。
この仕事をしていると、「新年は忙しいの?」とよく聞かれます。新年に忙しいのは『春の海』を演奏する箏と尺八の方々で、私たち長唄はそれほど引っ張りだこという感じではないのですが、歌舞伎に出演する男性陣は大忙しのようです。1月2日の新春歌舞伎公演初日は、どの劇場でもテレビ中継されるほど注目されていますね。
私は洋楽の方々と演奏する機会も多いので、ありがたいことに元旦からホテルの新春ロビー演奏などに出演しています。私にとってはのんびりした元旦よりも、演奏しているほうが好きなので、「元旦からお仕事大変だね」と言われますが、じつは真逆でとても幸せなのです。
さて、今回は新年ですし、日本文化について皆さんに学んでいただきましょう。和楽器というとすべてひと括りにされることが多いのですが、邦楽という日本の古典音楽の中で、和楽器は多岐にわたりいろいろなジャンルに分かれています。
日本のいちばん古い古典音楽は雅楽といわれています。雅楽は笙(しょう)や篳篥(ひちりき)などを用いる宮中音楽として楽しまれてきたもので、今でも結婚式や神社で演奏されていますね。代表的な曲に『越天楽』(えてんらく)があります。お正月、初詣に行くと聞こえてくる、あの曲です。
そしてお正月といえば、最初にも触れた『春の海』ですが、この演奏は三曲という音楽ジャンルで、箏・地歌三味線・胡弓(こきゅう)で演奏するものです。江戸時代後期の浮世絵師で、葛飾北斎の娘でもある葛飾応為が描いた『三曲合奏図』が有名で、その浮世絵を見るとイメージが掴みやすいかもしれません。明治以降は箏・地歌三味線・尺八で演奏する形態をとるようになりました。ここでも三味線が使われるのですが、私が演奏する長唄三味線とは違う種類のものです。
ひと言で三味線といっても、三味線には地歌三味線、長唄三味線、清元三味線、常磐津三味線……と、たくさんの種類があり、それぞれ楽器自体の構造は同じでも、その大きさ、糸の太さ、バチや駒の素材など違う要素が多く、そのため音色も大きく異なります。そして得意とする奏法も違うため、音楽ジャンルそのものが分かれているのです。長唄・清元・常磐津は歌舞伎のバックミュージックとして、芝居とともに発展してきました。
長唄だと有名なのが『勧進帳』です。今年の一月歌舞伎座、初春大歌舞伎では『京鹿子娘道成寺』(きょうがのこむすめどうじょうじ)が出盤されていていますが、女形ではとても有名な演目なので、ぜひチェックしてみてください。
執念により毒蛇となった白拍子(歌舞を生業とする遊女)の花子が、恋焦がれていた安珍を鐘ごと焼き殺したといわれる「安珍・清姫伝説」がベースになっている曲です。舞台は桜花爛漫の紀州・道成寺。舞台設営だけでも感動する美しさです。最初のシーンでは修行中の僧たちが「聞いたか聞いたか」「聞いたぞ聞いたぞ」と繰り返して登場します。これを「聞いたか坊主」と呼んでいます。
なんといっても見どころは、桜の花びらをかき集めて鞠を作り、少女のように鞠つきをするところです。その名も「マリ」と呼ばれていて、役者の踊りに合わせて三味線弾きが即興で演奏します。
可愛らしい踊りを見せるところから一転して、最後の「鐘入」のシーンでは、蛇体の本性を表す鱗模様の衣裳になり、鐘の上から僧たちをキッと見下ろす執念の姿がみどころとなっています。
少し興味を持っていただけたら、もし劇場まで足を運べなくとも文明の力にあやかって、「娘道成寺」で検索してみてください!
佐藤 さくら子
長唄三味線演奏家
さとうさくらこ/富士市出身。3歳より長唄三味線を始める。富士高校、東京藝術大学音楽学部邦楽科、同大学大学院卒業後、2013年からプロの演奏家として活動。浄観賞、アカンサス賞など数々の受賞歴を持ち、現代邦楽アレンジや作曲も手がける。海外での演奏活動やテレビ出演も多数。東京と地元富士市の2拠点で長唄三味線の指導を行ない、伝統音楽を継承する一方、「親しみやすい三味線」を重視した演奏の自由化にも取り組んでいる。
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