除草剤の使用について
木の近くまで除草剤を撒いてしまった例
樹木医が行く! 第38回
最近、除草剤で木を枯らすことについて、巷で話題になっています。富士市内の街路樹も全国ニュースになりましたね。そういえば、以前に除草剤のコラムを書いたなと思い、バックナンバーを調べてみると、6年前の2017年9月号でした。
それ以降も、私への問い合わせで除草剤に関する案件が顕著に増えています。おそらくホームセンターなどで安く手軽に除草剤を入手できることが要因の一つでしょう。相談が増えたため、私も除草剤対策、つまり除草剤の影響で弱ってしまった木への処置について考え、調べることが多くなりました。というのも、除草剤で一度弱った木がなかなか元気になってくれない事例が多く、どうしてかな?という疑問もあったからです。
粒剤タイプの除草剤は半年程度効果が持続するため、木が枯れてしまうことが多く、こうなるともう手の打ちようがないのですが、液体タイプの場合、成分が地面に落ちると土壌微生物により速やかに分解され、無害になるとされています。それなら除草剤によって瞬間的に木が弱ってしまっても、徐々に元気を取り戻してくれそうなのに、なぜ?と思いますよね。その理由が、別件の調べものをしていて目にした立命館大学の研究データの中に潜んでいました。
この研究は土壌中の微生物を活かして、より収穫量の多い有機農法を行なうことを目的としたものでした。研究の中で慣行農法(一般的な農法)と有機農法を比較しており、慣行農法では除草剤を日常的に使用しているという特徴がありました。つまり、除草剤を使っている農地と使っていない農地を比較・研究していたのです。私にとってこれは願ったり叶ったりの興味深いものでした。
そのデータによると、除草剤を使用すると土壌微生物の数が減り、場合によっては半減してしまいました。さらに生き残った土壌微生物の活動も鈍くなり、長期間ほとんど動かなくなることもあるようです。土壌微生物の数が減ったり、活動が鈍くなったりすると、当然ながら除草剤成分の分解や無害化は遅くなります。また、地面に落ちた枯れ葉や枯れ枝などの有機物の分解も進まず、土壌中に肥料分を供給するという土壌微生物の役割が果たせず、土の中の自然の循環が滞ってしまいます。
除草剤で弱っている木は、もう自力ではどうにもなりません。例えるなら、病気でおとっちゃんが寝込んでしまい収入が途絶え、薬を買うことはもちろんその日食べるものにも困っている、時代劇でよく見る貧乏な長屋の住人のような感じでしょうか。
弱った木に肥料を与えるという選択肢もありますが、この場合の根本的な解決方法は、活きのいい土壌微生物の数を増やすことです。木の周りにたい肥などを漉き込んであげることが正解といえるでしょう。
ところが、たい肥で木を少しずつ元気にすることはできたとしても、それと同時に雑草にもたっぷりと肥料を与えることになり、また雑草に悩まされることになってしまいます。なんとも難しい問題ですが、結論としては最初から除草剤を使わず、手で草取りをしたり、機械式の草刈り機を使って雑草をきれいにするのが一番良い、ということです。ちなみに、機械式の草刈り機は安全なナイロンコード式、かつ使いやすい充電コードレス式がおすすめです。
とはいえ、今年のような猛暑の中で「草取りをしなさい!」とも言えません。除草剤を使うマイナス面を理解しつつ、かつ除草剤の中でも木を枯らす事故が少ないといわれている商品(自分でも実験をしてみました)「ラウンドアップマックスロード」(日産化学)を使用して、庭木などを弱らせないようにする妥協案も提案しておきます。いずれにしても、自然を相手に人間はなかなか楽をできないものですね。
喜多 智靖
樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。