樹木は本当に冬眠しているのか?
樹木医が行く! 第29回
すっかり寒くなり、富士山も白い帽子をかぶり、浮世絵などで馴染みのある「これぞ富士山!」という姿になっています。そんな寒い冬には、人間も家の中でぬくぬくとして外出は控えたいと考えるのが普通だと思います。ときどきカエルやクマなどが冬眠することをうらやましく思ったりもします。
さて、突然ですがここでクイズです。樹木は寒い冬の間、まったくピクリとも動かないで、冬眠しているのでしょうか?果たしてどうなのでしょう。
正解は、「冬の間も樹木は活動を続けている」です。これはマツやツバキのように冬の間も葉をつけている常緑樹でも、サクラやモミジのように葉を落として枯れ木のようになっている落葉樹でも同じで、植物全般についてもいえることです。冬眠しているわけでも仮死状態になっているわけでもありません。
樹木は冬も根を生長させて水を吸収しています。その証拠に、冬の間まったく水やりをしないと枯れてしまいます。葉がない落葉樹でも幹や枝から水分がどんどん蒸発していくため、水分を補給する必要があるのです。また、養分(肥料分)もしっかり根から吸収しています。この寒い時期に吸収した養分は根に蓄えられて、春の芽出しのためのエネルギーとして使われます。
夏と冬の違いは、単純にその活動量の差です。暑い夏の時期の活動量を100とすると、寒い冬の時期は20~30とされています。例えば夏場、一般的に鉢植え植物は1日に2~3回程度は水やりをする必要があります。そうしないと、暑さと強烈な直射日光により、すぐに鉢の土がからからに干からびてしまいます。一方、寒い冬は2~3日に1回程度で十分です。気温が低いため、幹や枝から蒸発する水も少なく、強烈な直射日光もないため、それで十分に保つのです。また、昔からの風習で「寒肥」というものがあります。これは寒い1~2月に肥料を植物に与えることを指します。昔の人は感覚的に、植物が冬の間もきちんと活動を続けているということを知っていたのでしょうか。
最後に、冬場の水やりや施肥について書きたいと思います。まず水やりですが、絶対に守りたいことがひとつだけあります。それは「夕方の水やりを避ける」ことです。これは寒い夜の間に水が凍り、根を痛めてしまうことを避けるためです。また施肥については、先ほど述べた寒肥ですが、即効性の化成肥料を与えるのではなく、たい肥などのゆっくりと効果を発揮する緩効性の肥料を与えることが大切です。夏場の20〜30%程度しか養分を吸収しないため、化成肥料のようにどんどん水に溶けていっても、根が吸収しきれずに、逆に養分が土の中に溜まりすぎて「肥料焼け」を起こします。つまり、肥料が多すぎて根が枯れてしまうのです。
ぜひ皆さんも、しっかりと冬を乗り越えて、春の芽生えを楽しんでください。
喜多 智靖
樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』
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