60代ライターの散歩道【須津川渓谷をのんびり散策】
大棚の滝は静寂に包まれていた
お出かけレポート
充実した休日を過ごそうと、11月初旬に富士市比奈の須津川渓谷(すどがわけいこく)を歩いてきた。健脚なら、岳南電車の須津駅などから延々と歩いても行けるが、今回は“天空に架かる橋”の愛称がある須津渓谷橋や落差21メートルで有名な大棚の滝に近い第2駐車場まで車で行き、そこから散策を始めた。
愛鷹山系随一の渓谷で心身ともにリフレッシュ!
須津川の中上流部に開ける美しい須津川渓谷は、富士・富士宮地区や沼津市からもアクセスがしやすく、自然のままの山間美が残る穴場スポットの一つだ。吉原方面から出かけたため、須津小学校北の須津橋信号を左折し、わずかに雪かむりした富士山を目指す格好で、川沿いの道を走り、お茶やみかん畑の農・林道を進んだ。一度、公衆トイレで停車して用を足した後、いくつかの橋を渡り、木叢(こむら)の陰りが落ちる舗装路をスラロームしながら登った。
到着した第2駐車場は日蔭っていて肌寒かった。しかし、バンジージャンプに挑める須津渓谷橋を目当てに遊歩道を歩きだし、きつい登りを歩くうちに体は温まった。いうまでもなくバンジージャンプは、橋や崖などの高所から、命綱を頼りに飛び降りる絶叫アトラクションだ。あいにく施設は休業中のようで、須津渓谷橋にチャレンジャーらしき人影はいない。橋の歩道からはるか真下の須津川をのぞくと、ゾッとする高さだ。
北側に白い帯のような滝が見え、川面はつづら折りの道のように蛇行して流れていく。期待した紅葉にはまだ時期が早かったが、所々で山奥の錦秋は始まっていた。山間の紅葉は朝夕の寒暖差が激しいから、平地よりも濃淡が出やすいそうだ。愛鷹山系随一の渓谷だけに、モミジやイチョウが本格的に染まる時期になれば絶景だろう。今年は11月下旬から12月上旬が見ごろかもしれない。ひっそりとした山奥の風景に「森林浴は秋もいいものだなあ」と思う。
大棚の滝へは、長い下りの遊歩道を歩いた。水は命の源で、日本人は滝を神聖な場所としてあがめてきた。滝を間近に見られる早瀬の巌(いわお)に下り立ち、滝の流心を目の前にすると、おのずと手が合わさり、黙然と祈りを捧げたくなった。何を祈るわけではなく、ただ手を合わせ、マイナスイオンを浴びている感覚に包まれながら、じっとしていた。滝音が心にしみ、それ以外の音をのけた静寂に心身が包まれた。やがて、ゆるりと目を開けると、穏やかに光が差し込んで、山々の清水を白い一筋にした滝の流れは、どこか別世界の絵のように見えた。日頃の痛んだ心がすっきりとして、疲れがふっとんだ温泉帰りの気分になった。
周囲は渓谷の豊かな自然だ。12月から3月の期間は休場だが、近くにはテントサイト5か所の須津山休養林キャンプ場もあるそうだ(富士市役所林政課で要予約)。滝見橋というつり橋を渡って、駐車場に戻り、持参の水筒から緑茶をカップに注ぎ、ソロキャンプ気分で一服つけた。冬枯れを待つ木々のこずえは彫刻のようで、ときおり吹く微風を束ねて葉を揺らしている。自然に抱かれた後は、心身ともに元気になれるのはなぜか。小鳥の声がして、車窓から空を仰いだ。
(ライター/佐野一好)
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