Vol. 190|エンディングプランナー 中村雄一郎

中村雄一郎さん

想い人

「あの二人らしい、いい式だったね」とは、結婚式についてよく抱かれる感想だ。では同じ儀式でも、葬式に“その人らしさ”を感じることは果たしてどのくらいあるだろうか。

「100名いれば100通りのお別れがある」を信条に、“故人らしさ”“家族らしさ”に焦点を当て、従来のやり方にとらわれない葬儀で利用者の信頼を得ているのが、2017年に富士市に創業した葬儀場『かぐやの里メモリーホール』だ。今回話を伺った代表の中村雄一郎さんは、東日本大震災やコロナ禍の最前線に身を置いたこともあり、葬儀の企画のみならず、高齢化が進む日本の社会課題に対しても、突破口を見出そうと自ら動いている。

これまでに多くの家族と死を見つめてたどり着いたのは、豊かな人生には人と人との絆が欠かせないという事実。人々の絆づくりのために、自分に何ができるかが行動の指針だ。このインタビューを読み終えたら、離れて暮らす家族に久々に電話でもしてみてはいかがだろうか。

以前は国会議員の秘書をされていたそうですが、葬儀業界に入ったきっかけは?

議員秘書という仕事柄、葬儀に参列する機会も多かったのですが、そのたびに葬儀は儀式ありきで、故人や遺族側の視点で提供されていないと感じていました。それぞれにいろんな生き方を経て亡くなったのに、最後はみんな型通りに見送られることへの違和感が高じ、それならば自分で、理想とする葬儀を叶える会社を作ろうと決意したんです。独立を見据えて29歳で葬儀業界に入り、36歳の時に富士市で起業しました。

葬儀は基本的に内容が決まっていますし、多くの方がそれまでに参列した葬儀を参考に「うちもあんな感じかな」となんとなく決めていますよね。でも従来の葬儀だと、どうしても体裁や付き合いが優先されがちです。

たとえば故人が高齢だと、喪主である長男の関係者が9割で、直接故人を知らない参列者ばかり、ということも珍しくありません。さらに、参列者もお悔やみの気持ちより義務感のほうが強かったり、遺族もそんな参列者の対応に追われて、故人とお別れする時間が満足に取れなかったと後悔が残ることもあるんです。

我々は「もっと別のやり方があるのではないか」と感じている方々に新たな選択肢を提示したいと思っています。ここ数年はコロナにより世間の価値観も変化して、家族葬、それもお通夜にお坊さんを呼ばない一日葬が増えました。また、職業や地位によっては、遺族の希望で家族葬のあとにその人らしいお別れの会を開くこともありますね。

かぐやの里メモリーホール内装

どんな葬儀の形にも対応できるようあえて従来の葬儀場らしくない内装にしている

具体的にはどのように葬儀の内容を決めるのですか?

まずはエンディングプランナーと呼ばれる担当者が、遺族から故人との思い出や人柄をていねいに聞き取ります。闘病後に亡くなった方でも、元気な頃の楽しかったお話を伺うことで、悲しみの中でも遺族に笑顔が生まれることもあるんです。遺族の胸に刻まれた温かい思い出を踏まえて、故人のために葬儀の中でできることを具体的に提案します。

故人が親しい人とにぎやかに飲むのが好きだったら、「お通夜のあと、このホールで宴会をしたらどうでしょう」というのも一つ。場所にしても、葬儀会場よりも自宅が適している場合もあり、その家族ごとに異なります。キャンプが大好きだったお父様を送ったご家族は、葬儀会場に寝袋とテントを持ち込み、キャンプの定番だったというカレーを召し上がりながら、涙あり、笑いありの時間を過ごしていましたね。ただ「何歳の男性が亡くなりました」ではなく「キャンプを通じて大自然の素晴らしさを子どもたちに教えてくれたお父さん」という唯一無二の故人を家族みんなで偲ぶことで、葬儀自体もまた家族の絆を深める一助となるのです。

従業員一同、常に“相手のために何をしてあげられるか”を考えている

 

中村さんは終活カウンセラーとして市民講座などもなさっていますね。

身近な人が突然亡くなってから右往左往することがないよう、地域の方々への情報提供は葬儀会社の責務だと考え、積極的に発信しています。近年は「終活」の関心が高く、参加者はだいたい60~70代の女性が中心ですね。

終活とは、人生の終わりに向けた準備ではなく、終わりを考える中で今をみつめて残りの人生をより豊かに生きる活動としてお伝えしています。参加者の中には、自らの親世代が「縁起でもない」と死後の準備をしないまま旅立ったため苦労された方も多く、「自分は子どもに迷惑をかけたくない」「自分のことは自分でやりたい」という動機がよく聞かれます。終活といっても、お葬式の話だけでなく、お金や相続、自宅の処分、お墓、介護・看護まで、幅広い内容が求められます。

でも講座の終盤ではいつも、ひと通りの知識を得られて安心しているみなさんに、終活の手続き以上に心に留めてほしいことを伝えているんです。それが「思い出づくりをしてください」ということ。葬儀の現場に立っていると、家族の絆は思い出がどれだけあるかで大きく違うと実感するんです。「家族で写真を撮っていますか?」と聞くとみなさんハッとします。家族旅行だって、いつかいつかと思っているなら「半年以内に行ってくださいよ」と勧めます。できることなら弊社にも家族の思い出づくりをお手伝いする旅行部門を立ち上げたいくらいです。

人生の終わりに備えて自分の考えや思いを書き留めるエンディングノートの書き方を助言することもあるのですが、だいたいみなさんが悩むのが、配偶者や子どもへ遺す言葉といった、思いを乗せる項目です。人の気持ちは変わっていくのが自然なので、何度書き直してもいいと考え、気楽に始めるのがコツ。日付はきちんと記しておき、数年後に書くことが違っていてもまったく問題はありません。終活に向き合った方はたいてい「前向きになれた」と晴れやかな感想を持ちますし、残りの人生を充実させることこそが終活をする意味でもあります。

講座にはほかにも、判断力が低下した身寄りのない高齢者の財産管理を引き受ける「後見人」をしている社会福祉士さんが参加することもあります。彼らと話をするうちに、私自身も日本の後見人制度や施設で暮らす身寄りのない高齢者をどのように支援していくべきかと問題意識を持つようになり、3年前からは一緒に勉強会をしています。

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