『田子浦ビーチクリーンプロジェクト』

田子浦ビーチクリーンプロジェクト

多様な立場から手を取り合って美しいふるさと、田子浦を取り戻す

百人一首や万葉集にも詠まれた風光明媚な土地、田子浦。だが現在その海岸で目に入るのは、漂着ゴミがあちこちに散乱する驚くべき光景だ。この場所を、かつての美しい姿にして子どもたちに残したいと立ち上がった人たちがいる。大手電機メーカーの技師として活躍したのち、退職後はその知識と経験を活かし、ゴミ問題に向き合う時田祐佐さん。書家として活動する傍ら、市民活動団体の代表を務め、異なる立場の人間同士が連携して地域の課題に取り組めるよう働きかける赤澤佳子さん。SNSを最大限活用し、大きなうねりとなっている田子浦の清掃活動についてお二人に話を伺った。

時田祐佐さん

『田子浦地区まちづくり協議会』
環境部部長 時田祐佐さん

赤澤佳子さん

『fuji ことはじめ』代表 赤澤佳子さん

赤澤さんの活動団体と、田子浦清掃活動の関わりについて教えてください。

赤澤:
富士市の市民活動団体『Fujiことはじめ』の中で、福祉とまちづくりに特化した部門『SASAERU』を主宰しています。参加メンバーは肩書に関係なく、支え合えるまちづくりを、という趣旨に賛同する方々。『SASAERU』のフェイスブック(FB)ページでは、ふだんからメンバー同士がさまざまな情報をシェアし、誰かが街の困りごとを投稿すれば、力になれる誰かが応えてくれる……そんな関係ができています。私が田子浦の現状を知り、昨年8月に富士市宮島の入道樋門付近の海岸で清掃イベントを企画した際も、下見の段階から多くのメンバーがゴミ拾いに協力してくれました。イベント後も時間の空いた人が個人的に清掃に行ったり、ゴミの多い地点を知らせ合ったりして、今ではメンバーが新たに『田子浦ビーチクリーンプロジェクト』というFBグループを立ち上げてくれました。大規模なものとしては2回目となる今年10月のイベント、『環境フォーラム』(清掃活動+講演会)には総勢50名が参加してくれて、280袋分ものゴミが集まりました。ゴミ問題に限らず、このような地域の課題は地元町内だけで解決するのは難しい。地区外から人を集め、協力し合うことが不可欠です。私の役割は、課題に対し地元、行政、ボランティアといった横のつながりを作ること。多くの人の手で、未来の子どもたちによりよい環境を残していきたいと思います。

時田さんは先日オープンした富士市新環境クリーンセンターでの工場棟案内を手伝ったり、ゴミ問題に広く取り組んでいらっしゃいますね。

時田:
会社員時代に家電製品のリサイクル法制に関わるなど、長らくゴミ問題に関心を寄せてきました。定年後は『NPO法人富士市のごみを考える会』の設立メンバーとしても、ゴミ問題の啓蒙活動をしています。主たる取り組みのひとつが、イベントでのリユース食器利用の推進。“ゴミを減らすこと(=リデュース)”の重要性に着目し、地元企業の食堂や学校給食から使わなくなった食器の提供を受け、各種イベント会場での使い捨て食器の削減に取り組んでいます。また、家庭から出る“燃やすゴミ”の約半分を占めるのが生ゴミですが、水切りして減量化したり、堆肥にして資源化したりといったことも促進していきたいと考えています。

田子浦での清掃活動が広まった背景と、現在の活動の様子を教えてください

時田:
赤澤さんとは昨年の入道樋門でのイベントで知り合いました。大勢が集まって清掃すると聞き、地元『田子浦地区まちづくり協議会』として協力を申し出たんです。当日の清掃はもちろん、事前に参加者の駐車スペースを確保したり、ゴミの溜まった海岸線へ出やすいよう雑草やイバラを伐採。その後、FB上にできた清掃活動グループには現在約50名が参加して、外部から多くの協力が得られるようになっています。コロナ禍で、地元でも例年どおり集まっての清掃がやりづらい今、とてもありがたいですね。地元としては行政と連携して、ゴミ袋が簡単に入手できるようにしたり、拾ったゴミを一時保管する場所の確保や迅速な収集などの面で支援していただいています。大事なのは『拾う』~『運ぶ』〜『処分する』まで一連の工程がスムーズであること。たとえばFB上で“この日、拾うだけならできます”という人がいたら“じゃあ運ぶのは私が”などと、無理なくサポートしあえる仕組みができています。現在、世界的に海外から流れ着く海洋プラスチックゴミの問題が注目されていますが、田子浦にあるのはおそらく市内の河川から運ばれてきたであろう、日本製の包装容器などがほとんど。大半は自分たちが出した『地元のゴミ』なんです。一見、ゴミがないと思われる場所もじつは“捨てる人がいない”のではなく“拾っている人がいる”ということ。こんな風に誰かが拾っている姿を見たら、ポイ捨ては減っていくはずです。我々の活動によって少しずつ人々の意識が変わっていけばいいと期待しています。

(ライター/小林千絵)

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