ヒイラギは丸くなる

ヒイラギの葉

樹木医が行く! 第35回

前回のツバキ・サザンカのテーマと今回のテーマで順番が逆だったかな?と思いつつ、節分の日も過ぎた頃にこのコラムの原稿を書いています。今回のテーマは「ヒイラギ(柊)」です。

ヒイラギの名前の由来は、葉が尖っていて触れると「ヒリヒリ痛む」ことから、「ヒリヒリ痛む」→「疼(ひいらぐ)」→「疼木(ひいらぎ)」→「柊(ひいらぎ)」になったとされています。

さて、節分の日の飾りというと、「柊鰯(ひいらぎいわし)」があります。この風習は古く、平安時代から始まったとされています。この行事の飾りは独特で、焼いたイワシの頭を葉つきのヒイラギの枝に刺し、玄関のドアにかけて、鬼が家の中に入ってこないようにするという風習にちなんだ飾りです。柊鰯が飾られる理由は、つまり「魔除け」です。鬼は臭いものや尖ったものが嫌いという言い伝えに依っています。焼いたイワシの臭いで鬼を遠ざけ、尖ったヒイラギの枝で鬼の目を刺すともいわれています。また節分とは関係なく、鬼門の方角(北東)にヒイラギを植えることにより、魔除けの効果があるともされています。

さらに、ヒイラギといえばもう一つ、クリスマス飾りの「クリスマスリース」にもヒイラギを使います。こちらの風習についても調べてみましたが、よくわかりませんでした。魔除けや豊作祈願などのようですが……。ただし、クリスマスに飾るヒイラギは、正式にはセイヨウヒイラギ(英名:クリスマスホーリー)で、ヒイラギと形は似ていますが、まったく別の樹木です。

ところで、尖った葉で魔除けをしてくれるヒイラギですが、困ったことに「葉が丸く」なります。これでは鬼の目には刺さりません。じつはヒイラギは、樹齢が進み老木になると、だんだんと葉の棘が丸くなる傾向にあります。よく「人間、年を取ると丸くなる」といいますが、人間もヒイラギも同じのようです。

この樹齢とともに葉が丸くなるような現象を、専門用語で「異形葉性」といいます。この現象もどのように起こっているのか、そのメカニズムはわからないことだらけです。しかし、ヨーロッパで行なわれたセイヨウヒイラギを対象とした研究によると、動物に葉を捕食されるほど、棘が増えるということがわかりました。これはすごいですね!つまり、樹木は自分の身を動物から守るために、自分自身で葉をトゲトゲにしているということです!

たしかに、ヒイラギの丸い葉がついている枝を剪定すると、新しく出てくる葉は棘のあるものが多くなります。これを一般的に、「若返り」とか「先祖返り」と呼んだりします。つまり、人間に剪定されたことを動物に捕食されたとヒイラギが判断して、葉をトゲトゲにしているということでしょうか。

やはり植物はとても興味深く、侮れませんね!

2枚の写真は同じヒイラギの木

「異形葉性」により丸くなった葉

「異形葉性」により丸くなった葉

「若返り」により棘が増えた葉

「若返り」により棘が増えた葉

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。