11月3日 おせんげんさんへ向けて

甫の一歩 第21回

前回のコラムから1年弱ぶりにペンを執らせていただきます。私はあいもかわらず、月に2回ですが富士宮市にある『臥牛敷舞台』にて能のお稽古を続けています。最近は新幹線を使わず、東京から車で移動することが増えました。稽古終わりの帰路は21時を過ぎることが多く、お腹はもうペコペコです。そんな道中で楽しみにしているのが、新東名の駿河湾沼津サービスエリア。夜遅くでもフードコートがじつに充実していて、ホッとひと息つけるお気に入りのスポットになっています。東京と富士宮を行き来する、そんな車中のひとときも、今の私にとって大切な日常の一部です。

 

地域に根ざした舞台を捧げたい

さて、今回のコラムでも前回に引き続き、子どもたちのことをお話しさせてください。昨年は、熱海のMOA美術館という非常に立派で由緒正しき能舞台にて、念願の発表会を行なうことができました。子どもたちが晴れの舞台で堂々と挑戦する姿は、指導者としても感無量の一幕でした。そして今年はさらに地元へ根ざし、もはやここ以外にないという場所での開催となります。そう、富士宮の富士山本宮浅間大社。私が幼少より「おせんげんさん」と呼ぶ、あの境内での奉納公演です。

夏休みの親子教室を始めてはや数年。そもそも、臥牛敷舞台で能のお稽古を始めてからは、丸8年、9年……いや、気づけば10年弱という月日が経ちました。この場所で地道にお稽古を重ねてこられたのは、本当にありがたいことです。少しずつ体制が整ってきたのは、初期からずっと温かくお稽古を続けてくださっている古参のお弟子さま方や、新たに始めてくださったお弟子さまたちのお手伝い、そして日々の支えがあったからこそ。だからこそ、今年の11月3日「文化の日」に、浅間大社で教室の子どもたちが舞台を勤め、奉納するということは、これまでの歩みの集大成としての大きなゴールであるのと同時に、新たなリスタートの日にもなるのだろうと感じています。

臥牛敷舞台での稽古風景

熱海・MOA美術館能楽堂での公演

 

昨年の熱海の立派な能舞台での経験も素晴らしいものでしたが、やはり、より地域に密着した形で能を捧げたいという想いがあります。古来より、能楽は地域の信仰や祭りと深く結びつき、神社仏閣にその精神を奉納するものとして演じられてきました。その本来の姿を受け継ぎ、おせんげんさんの歴史ある空気に包まれながら神様に舞台を捧げる――そんな一日にしたいのです。

当日は、秋の澄んだ空気に子どもたちの穢れのない、純粋な声が響きわたることでしょう。その景色を、地元の大人の方々や子どもたちにぜひ見ていただきたいと思っています。それをきっかけに、「自分もお稽古を始めてみよう」「お能の世界を覗いてみよう」という輪が、この富士宮の地で少しずつ広がってくれたら、これほど嬉しいことはありません。文化の日、おせんげんさんの境内でお待ちしています。ぜひ、次代を担う子どもたちの「はじめの一歩」を観にいらしてください。

浅間大社の境内を最高の晴れ舞台に


奉納能楽宝生流富士宮幸宝会
11/3(火・祝) 15:00〜16:30
富士山本宮浅間大社 楼門内仮設舞台(雨天時は本殿内)
観覧自由

田崎甫プロフィール

田崎 甫

宝生流能楽師
たざき はじめ/1988年生まれ。宝生流能楽師・田崎隆三の養嫡子。東京藝術大学音楽学部邦楽科を卒業後、宝生流第二十代宗家・宝生和英氏の内弟子となり、2018年に独立。国内外での公演やワークショップにも多数参加し、富士・富士宮でもサロンや能楽体験講座を開催している。
田崎甫公式Web「能への一歩」
田崎甫 Instagram

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