スマホを使ったマッチングはボランティアの価値を変えるか
〜市民活動の主催者と参加希望者をつなぐ社会ビジネスへの挑戦〜
社会貢献への意識が高まりつつある日本でも、ボランティアの経験がある人はわずか27%程度といわれる。いざ興味を持っても、何から始めたらいいかわからないのが現実ではないだろうか。
今回お話を伺ったのは、ボランティア参加のハードルを下げ、「人と人が支えあうやさしい社会」を実現させようと奮闘する社会起業家、松永智教さん。県東部の自治体と連携しながら、市民活動主催者とボランティアを効率よくマッチングできるシステム『AVS』(Active Volunteer System)の開発を行なっている。松永さんの思い描く未来像や、活動にかける思いを取材した。
松永智則さん
開発中の『AVS』とはどういうものですか?
ひと言でいうと、スマホアプリのLINEを使った『ボランティア参加機会の提供』と『興味のない方へのボランティア情報拡散』です。ボランティアをしたい人は、登録者に配信される募集情報に対し『参加する』ボタンを押せば、参加表明が完了します。また、ボランティアに関心のない層へは、地元のイベント情報やクーポンの配信を入口として登録してもらいます。お得情報とセットでボランティア情報を配信することで情報に触れてもらう機会を増やして、ボランティア人口の拡大を目指します。
まだ実証実験の段階ではありますが、いずれは登録者とイベント主催者、地域のお店全員がwin-winで回るビジネスとして確立させたいと考えています。
市民活動主催者とボランティアのマッチングシステムを形にしようと思ったきっかけと、具体的な取り組みについて教えてください。
僕には車椅子で生活する高1の娘がいるのですが、普通の子たちのスポーツ少年団のような経験をさせたくて、4年前に『長泉スポーツクラブ』という障がい者スポーツ教室を立ち上げたんです。毎月第一土曜日の午前中に長泉町で、障がいを持つ子とその家族10組くらいとボランティアスタッフが集まってさまざまなスポーツを楽しんでいます。
しかし、こういった活動について回るのがボランティア集めの苦労です。僕のような主催者側と、ボランティアをしたい人がもっと簡単にマッチングできればと考えたのがきっかけですね。2018年には経済産業省主催の起業家育成プログラム『始動』に参加し、『考える人から行動する人になろう』の標語の下、自分の思いを伝え行動に移す重要性と方法論を叩き込まれました。
その後はとにかく行動をと、資料を携え多くの方々に自分のビジョンを伝える機会を作っています。システムの実証実験では裾野市に協力をいただき、活動に賛同してくれた沼津市、三島市、長泉町からも後援をいただいています。また、資金面の課題をクリアするためビジネスコンテストにも応募しているところです。
こうした活動の先に松永さんが見据える、理想の社会とはどんなものですか?
一貫してブレない目標は『人と人が支えあうやさしい社会を作ること』です。必要な場所に誰もが簡単に力を貸せる仕組みがあり、障がい者も健常者もご高齢者も、みんなが笑って過ごせる社会を作りたい。
開発中のシステムはデジタルですが、僕はそこに重きを置いていないんです。デジタルはあくまで、アナログの入り口。人間同士の支えあいという、一番大切なアナログの部分により注力できるよう、それ以外はデジタルで効率化したい。スマホ片手に『時間が空いたから、ボランティアでもするか』という気軽さで誰もが福祉に携われるのが理想ですね。
補助金に頼らざるを得ない現状から一歩進んで、福祉そのものを自立して機能させる必要性も感じています。福祉とビジネスを結びつけるという新しい視点は、物議を醸すことも事実です。しかし、持続できるシステムを作り、その利益を福祉のさらなる充実につなげていくことで、誰にとってもやさしいユニバーサル社会が実現できると信じています。
(ライター/小林千絵)
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