剪定について考える

樹木医が行く! 第26回

一般のお宅の場合、お庭の木々の剪定(せんてい)は10月~12月がピークになるかと思います。正月をきれいな庭で過ごしたい!という要望で、皆さんの依頼が集中するためです。そのため、植木屋さんはこの時期てんてこ舞いです。

しかし、剪定適期はざっくりいうと11月~3月。木が休眠している寒い時期に行うほうがダメージが少ないのです。寒い地域では厳寒期の12月や1月は不適ということもありますが、静岡は暖かいので真冬でもまったく問題ありません。皆さんがこの記事を読んでいる頃には、街のあちこちで街路樹の剪定が行われているのではないかと思います。

街路樹の剪定作業

街路樹の剪定作業が進む国道1号富士由比バイパス。
奥の上り線は剪定前、手前の下り線は剪定後の木々。
(12月中旬撮影)

剪定をすると、葉が減り、枝も減り、お庭の木々はさっぱりして、街路樹もほぼ丸坊主のようにすっきりした状態になります。夏場はあんなにあった葉や枝を一気になくしてしまって大丈夫なの?と思った方もいるのではないでしょうか。

葉は何をするところかというと、根から吸い上げた養水分、葉が受けた太陽光エネルギー、そして葉の裏側から吸収した二酸化炭素を使って、木が生きていくため、生長するための栄養分を製造するところです。枝は何をするところかというと、翌春に新しく葉を出すための栄養分を蓄えておくところです。ということはつまり、葉がなくなると、木は生きていくこと、生長することに苦労するということです。同様に、枝がなくなると、翌春に葉を出すことに苦労をするということになります。

では、剪定はどれくらいの割合だとちょうどいいのでしょうか?じつはお庭の木々や街路樹で実施されているような剪定程度はちょっと行き過ぎになります。いろいろな研究の結果、葉の枚数換算で90%程度を剪定(以後、強剪定)してしまうと、1年経っても前年の状態まで木は回復できないことがわかってきました。おそらくお庭の木々、街路樹はこれに該当するかと思います。つまり、毎年強剪定され続けると、木はどんどん弱っていって、最後は枯れてしまいます。時々枯れた街路樹を見かけるのは、ひょっとすると剪定のし過ぎが原因かもしれませんね。

最適なのは、葉の枚数換算で50%くらいの剪定(以後、弱剪定)のようです。弱剪定だと、1年も経つと木は剪定前の状態まで回復してくるそうです。それはつまり、木の生長を抑えつつ、ずっと元気なまま保つことができるということです。

ただし、強剪定でも弱剪定でも剪定をすると、その程度によって太い根から枯れてしまいます。そのため、あまり強い剪定をすると、根がどんどん弱くなり、なかなか回復もしてくれないため、台風ですぐにひっくり返ってしまう危険な木になってしまいます。

漂流したタンカーによって関西国際空港の連絡橋が破壊された台風21号や、全国各地で最大瞬間風速が観測史上最大を記録した台風24号など、去年は大きな災害に見舞われました。自然には逆らえませんので、あまりに強い台風で木が倒れたり、枝が折れたりするのはしょうがないことですが、人間が行う剪定でわざわざ木を倒れやすくしてしまうということは、なるべく避けたいですね。

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

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