桜の木が危ない!
樹木医が行く! 第20回
知人から聞いた話ですが、『20年後には日本から桜の木がなくなるかもしれない』という内容のテレビ番組が先日放送されたそうです。私はその話を聞きながら、なぜかバナナのことを思い出しました。それはソメイヨシノもバナナも全ての木がクローンであるため、全く同じ遺伝子を持っているという弱点があるからです。
現在、バナナは2度目の世界的絶滅の危機にあります。原因はパナマ病(現在のものは新パナマ病)というカビの一種(フザリウム菌)による病気です。フザリウム菌はイチゴにも大きな被害を与える病原で、日本でもイチゴ農家の皆さんは日々苦労を重ねています。
60歳以上の方々が「昔のバナナは美味しかった」と言っているのを聞いたことはないでしょうか?実は1960年頃にパナマ病が原因でバナナは世界的に一度絶滅しました。昔のバナナとはこの絶滅したバナナのことなのです。その後、味が良くないなどの欠点はあるものの、パナマ病に強いバナナの新品種が作られました。それが現在のバナナです。しかし、そのバナナにも新パナマ病という病気が見つかり、現在アジア地域で猛威をふるっています。この病気に対して根本的な解決策は見つかっていません。同じ遺伝子を持つバナナが世界中に植えられているため、たった1つの病気で絶滅に追い込まれる可能性が高くなってしまうのです。
さて、桜に話を戻します。私は最初、桜の木が危ないというのは遺伝子による弊害の問題なのかと思いましたが、どうも内容は違っているようでした。日本中にある桜の名所の危機として指摘されてきたものはこれまで、(1)ソメイヨシノの寿命(一般的に60~80年と言われています)と、(2)地球温暖化の2つでした。
戦後、ソメイヨシノが日本各地にどんどん植樹され、多くの名所が誕生しました。そんなソメイヨシノも植栽されて60年経ち、だんだん弱ってくるものが増え、台風などによる倒木の危険が心配されるようになってきました。これが(1)にあたります。そして(2)は、昨今進行する温暖化による平均気温の上昇に関連しています。ソメイヨシノは冬に一定期間低温(10℃以下)の時期を経ないと春に開花しないと言われています。そのため鹿児島県の種子島あたりでは、すでにソメイヨシノが開花しにくい状況になっています。毎年一番乗りで開花することが当たり前だった静岡も、この2年間は東京などに先を越されています。個人的には温暖化の影響でなければいいなと心配しています。
そして最近、もう1つの重大な危機が桜に迫っています。知人が観たテレビ番組でも紹介されていたそうですが、クビアカツヤカミキリという外来種の昆虫が桜に被害を与えているのです。カミキリムシが桜の木に産卵し、その幼虫が桜の幹の中を食い荒らすことにより、桜の木を衰弱・枯死させしまうのです。バラなどを育てている方には経験があるかもしれませんが、通称テッポウムシの仲間です。クビアカツヤカミキリは繁殖力が強いため、その拡大を防ぐことが重要で、被害を受けた桜はまだ枯れていなくても伐採される方向で対策が取られています。被害を受けた桜の幹の中には多数の幼虫が存在し、それらが羽化して成虫が飛び立ち、周辺の桜にさらなる被害を与える可能性があるためです。カミキリムシの直接的・間接的な影響で、日本からどんどん桜が減りつつあります。
幸い、静岡県にはまだこのクビアカツヤカミキリは侵入してきていませんが、桜の花見シーズン以外でも、桜の木のそばを通る際は、そんなことをちょっと気にしてみてください。
喜多 智靖
樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』
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