面白い特徴を持つ富士山

樹木医が行く! 第25回

富士山の開山期間も9月10日までということで、もう終わろうとしています。今年も多くの方が、日本中だけでなく、世界中から登山に来たのだろうと思います。私は富士登山をしたのは一度だけです。もう20年以上前のことです。

富士山の標高は3,776メートル、これは皆さんご存知かと思います。ではここで問題です。田子の浦の海岸(海抜0メートル)で気温35℃の猛暑日だったとすると、富士山頂の気温は何度でしょうか?

正解は、だいたい12~13℃です。これは高度が100メートル高くなるにしたがい、気温が約0.6℃下がる「気温逓減率」という現象によります。ということは、冬に富士山に登ることはとてもできないと分かりますね。

またもう一つ。緯度として100キロ北上すると気温が約1℃下がる気温逓減率というものもあります。では、富士山の頂上と同じ気候の場所はどこだろうと、直線的に1,200キロほど北上した地点を調べてみると、北海道の稚内(宗谷岬)とだいたい同じでした。つまり、富士山頂の気温は日本最北端の気候と同じということになります。

植物の世界で、富士山は面白い特徴を持っています。富士山は標高が日本一高く、ずっと続く斜面を持っています。下から登ると、標高に合わせて気温がだんだん低くなっていき、それに伴って、標高の低いところから高いところにかけて、生えている植物が徐々に変わっていきます。この生えている植物の変化を「植物の垂直分布」といいます。つまり、富士山の綺麗な姿のおかげで、見事な植物の垂直分布を見ることができるのです。

富士山の標高700メートルくらいまでは、かなり人間の手が入り、天然林はほとんど残っていないといわれています。このあたりは温暖な静岡の気候に合った暖帯性のシイ・カシなどの木々が生え、人工林のスギ・ヒノキも多く見られます。少し標高が上がった700~1,600メートルくらいまでは、温帯性樹木が生えています。ブナ・ミズナラなどに代表される木々です。さらに登ると、1,600~2,500メートルのあたりで、亜寒帯性の木々が見られ、カラマツ・ツガ・シラビソなどがうかがえます。そして、2,500メートルの位置がいわゆる森林限界と呼ばれています。つまり、背の高い木は生えることができず、草類や背の低い地を這うような木がかろうじて生えているエリアです。

富士山五合目植生

富士山富士宮口五合目(標高約2,400メートル)付近の植生

実際、植物もなんとか生き残ろうと頑張っていることでしょうが、富士山は比較的最近噴火した火山であり、標高の高いところでは、いつも落石や雪崩が発生し、地面が安定しないため、植物が根を張ることはなかなかできません。もしうまく植物が根をおろすことができたとしても、標高2,500メートル以上では寒帯林が広がり、さらに上の頂上付近では、寒々しい宗谷岬灯台周辺のような風景になるのでしょうか。どちらにしても、かなり厳しい環境であることに違いはなさそうです。

静岡にいながら、遠く北海道に生えるような木々まで見ることができる、富士山。次回登山をする時は、頂上到達、ご来光だけでなく、周りの木々や足元の植物にもちょっと意識を向けてみてください。

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

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