Vol. 181|児童発達支援・放課後デイサービス ぱれっと 代表 後藤快枝
みんなちがう色でいい
2016年公開のディズニー映画『ズートピア』。あらゆる種類の動物がそれぞれの持ち味を活かして共存する理想の街で、ウサギ初の警察官となる夢を叶えたジュディ。彼女は映画の終盤、動物たちを前に、希望に満ちた表情でこう言う。『お互いをよく知り、違いを認め合えば、きっとうまくいく』。今回のインタビューを終えて浮かんだのが、先の映画のワンシーンだ。
富士宮市星山で児童発達支援・放課後デイサービス『ぱれっと』の代表を務める後藤快枝さんは、子どもたちが抱える発達上の凹凸も、一人ひとりが持っている色とりどりの個性である、という考えのもと、必要とされる人に、必要な場所で、必要な支援を提供することで、多様な人間がお互いを活かし合える未来を目指す。自分にも、あなたにもある、少しの足りなさ。それを含めて、理解し合い、認め合い、助け合えれば、きっとうまくいくのだ。さあ、私たちは明日から、周囲の人たちにどんな眼差しを向けることができるだろう。
『ぱれっと』とは、どういった施設ですか?
じっとしているのが苦手で、授業中でも構わず教室を飛び出す、何度言われても忘れ物が減らないなど、さまざまな困りごとを抱える『発達障害』。近年メディアでもよく取り上げられ、誰もが耳にしたことがあるのではないでしょうか。2020年4月に開所した『ぱれっと』は、こういった多動や不注意、自閉的傾向などの特性を持つ子どもへの支援を行なう児童発達支援・放課後デイサービス施設です。乳幼児の場合は、わらべ歌や読み聞かせといった遊びを通じて親子の愛着を強めたり、『療育』と呼ばれる、日常生活に必要な能力を身につけ発達を促すような支援をしています。
ですが、残念ながらこのような民間の施設があることはあまり知られていません。市の施設とも併用できたりとメリットも多いので、まずは存在を知ってもらおうと保育園や幼稚園の関係者にも積極的にお知らせをしています。小学生以上は、学校が終わるとやって来て、宿題をしたり個別に必要な学習支援を受けたり、制作活動などに取り組みます。
『ぱれっと』では、教員など教育現場をよく知る職員が学習支援に当たるので、一人ひとりの特性や発達に応じたきめ細かい対応ができます。お子さんの発達面に不安があるかたは、まずはお電話をしてもらえると具体的に相談に乗れると思います。
幼い頃から保育士になりたかったそうですね。
小学校の卒業文集に、保育士になりたいと書きました。原体験は自身の子ども時代です。病気の父に代わり、母が働くために市内の保育園に預けられたんですが、当時その園で乳児は私だけ。先生方や年上の子たちにすごくかわいがってもらいながら育ちました。その幸福な記憶と、卒園後も折に触れ園に顔を出し、信頼できる大人に進路を相談したりする中で、こんな風に子どもを支える保育士になりたいという思いがますます強くなったのです。
結局、社会人になって入社したのはその自分の通った保育園。特色のある園で、全国から保育士が視察に来るような多角的な保育を実践していました。その中のひとつが、テーマを設けずに子どもが思うままに絵の具で画用紙に描く『自由画』です。職員は美術を教育に活かすことを目指している団体である創造美育協会での研修や勉強会に参加したりして、絵から子どもの心理を読み取り、保育に活かす訓練を重ねていました。全国から視察に来た保育士もそれぞれの園で取り入れ、今も情報交換をしたり学び合いを続けているんですよ。
私は保育士として22年勤めたあと、引き続き自由画を通じて子どもの育ちに寄り添うため『キッズ・アート・クラブ』を立ち上げました。子どもの内面を知って子育てに役立てたいと考える親御さんから支持を受け、隔週で子どもたちが私の自宅に絵を描きにやって来ます。中には、立ち上げ当時に通っていた生徒が母になって、自分の子どもを通わせているケースも。
子どもの心は驚くほど絵に現れます。継続的に見ていると『今、気持ちが不安定になっているかな』など変化に気づくことができ、早めに声をかけて悩みを聞いたり、親御さんと共に対応を考えたりすることができるんです。また、子どもたちにとっても、絵に気持ちをぶつけて発散できる場になっています。『あの先生嫌い!』と怒りながら筆を走らせたり、傷ついた悲しさを表現したり……。絵を見ていると、どの子もいろんな思いを抱えて外で頑張っているんだなと感じます。
親御さんにはそのぶん、家での甘えを許してあげてほしいですね。自分の子はつい、『もう〇歳』と思ってしまうけれど、家では『まだ〇歳』。抱っこしてあげてもいいし、子どもが望むなら時には靴下をはかせてあげてもいいんです。よく言うのが『お母さんはスマホの充電器。外でいっぱい電池を使って疲れた子どもを家でがっちり充電してあげてね』と。子どもたちの成長がよく分かるこれらの絵は私にとっては宝物。一枚も捨てられず、倉庫には車一台がすっぽり入ってしまうほどのスペースを占めています(笑)。子どもの心を知る大きな手掛かりになるので、自由画制作は『ぱれっと』の活動にも取り入れています。
『ぱれっと』の児童発達支援では、親子への療育を大切にされているそうですね。
療育というと子どもに対して行なう施設がほとんどですが、『ぱれっと』では親子を対象としています。乳幼児期は親子で過ごす時間が長いので、生活リズムの整え方や、親子の絆を強めるのに最適なわらべ歌、手遊びなどの具体的なやり方を伝えて、毎日の暮らしで実践していくことが欠かせないと考えるからです。
核家族化や少子化が進んで、子どもを産んで初めて赤ちゃんと接するような母親も増えている昨今ですが、慣れない育児に加え、わが子に発達の遅れが見られたりすると保護者、特に母親の不安はとても大きくなってしまいます。お母さんたちが追い詰められないよう、相談に乗って気持ちに寄り添うことで、不安を減らしてあげたい。できるだけ頻繁に療育を利用してほしいと願う背景には、こういう危機感があるんです。
ただ、親が自分の子どもに療育の必要があると気づいたり、発達障害があることを受け入れるのは簡単ではありません。だいたい、3歳児健診で保健師から市の療育施設を勧められることになるのですが、実際にはその場で指摘されないようなグレーゾーンと言われる子どもたちにも療育が必要な場合があります。
日常的に子どもと接している保育士が保護者に『発達面で気になることがある』と伝えられるのが理想ですが、医療関係者の診断でないと受け入れられにくいのが現状。発達の問題はとてもデリケートで、伝え方次第では怒ってしまう親もいます。それに、お母さんは疑っていても、血筋を気にして夫や夫の両親からそんなはずはないと否定されることもあるんですね。でも、小学生になるまでに、パニックや癇癪を起こさず気持ちを切り替えることや、手先の器用さ、身体の使い方などを少しずつ練習しておけば、子ども自身の負担は減るのです。
そのためにも早めに気づき、対応することが大切。地域によっては、保健師が月に一度、保育施設を巡回して、気になる子の親に伝えるという仕組みを取り入れているところもあります。早期に支援につなげられる仕組み作りは大きな課題ですね。
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