60代ライターの散歩道【岩本山公園のアジサイ】
自然は素敵な芸術家
お出かけレポート
長らく富士市在住ながら、岩本山公園のアジサイを観賞した経験がなかった。先月上旬、富士市西部に位置する花々の名所であり、富士山のビュースポットでもある同公園へ、車で出かけた。
色鮮やかなアジサイ群やおしゃれなカフェもある
梅や桜で知られる岩本山公園には、1万株以上のアジサイが植えられているそうだ。富士市松岡のジャンボエンチョー富士西店前の街道を北上し、富士宮市へ抜ける高原(たかはら)へ車を走らせた。雲がなければ雄大な富士山を仰げる。途中、案内看板があり、茶畑や樹林を抜けて同公園の駐車場に到着した。
昨年の夏、実相寺方面から徒歩で木漏れ日のハイキングコースを登り、息を切らした記憶がまだ残っていた。一方、高原から車で来るルートは、ふもとから歩きたい人には物足りないかも知れないが、標高193メートルの岩本山の山頂へと難なく到着できるから、雨天時や猛暑日の散策には向いていると思う。
さて、漢字で書く『紫陽花』は、一目では読みづらい。陽を浴びる紫の花のイメージだろうが、ひも解くと『アジサイ』とも『シヨウカ』とも読むそうだ。集合した真の藍色=集(アズ)真(サ)藍(アイ)が変化して、アジサイという音になったともある。岩本山公園は約13ヘクタールあり、だだっ広い。パノラマ展望台へ向かうゆるい登り坂の途中、梅園の周囲に咲いたアジサイを観賞した。パッと見ると、花は4枚の花びらからできているようたが、それらは萼片(がくへん)で、中心部に本当の小さな花がある。バックパックを背負ったカップルも同じように前かがみになり観賞していて、目が合って会釈をした。
ここのアジサイは例年5月下旬が開花時期のようだ。訪れた時は咲き始めだったから、今年はこの号が発行されるころまでは楽しめるだろうか。それにしても、自然は途方もない芸術家だ。毎年こんなに美しい花を咲かせてくれる。仮にアジサイのオブジェを作るとして、これほど繊細な細工を施すのに、一体どれほどの手間がかかるだろう。少なくとも私には一生かかっても作れないだろう。色とりどりの品種が並んだ坂道を歩けば、梅雨時のどんより気分は雨上がりの青空へ、駆けだすようだ。ヒザを深く折って下から上へ、アマガエルのような低い視線で見上げると、ガクアジサイは新種のドローンのようだった。
色合いについて述べるなら、私のイメージの中のアジサイは、青系が基本色だった。色合いの違いは土質に関係していて、酸性土で青みが強く、アルカリ土で赤みが強まる傾向があるという。アジサイは世界に広がった日本自生の園芸植物で、江戸時代後期にシーボルトが著書『日本植物誌』に発表する前、すでに英国人のバンクス卿へと生体が持ち込まれ、交配により多くの園芸品種が作り出されていたそうだ。日本原産は花言葉が『謙虚』のガクアジサイ。母種を輸出し、ヨーロッパで品種改良がなされ、より鮮やかな花色になって里帰りしたのが西洋アジサイだ。
岩本山公園には他にもバラの観賞ができる花壇や、駿河湾、富士市街を展望できるテラスもある。ピクニック、愛犬との散歩、カフェでの休憩なども楽しいだろう。東洋のバラと呼ばれるアジサイはきれいだ。といえば簡単だが、普段から公園の管理をされている皆さん、夏は暑いし、冬は寒いでしょうが、いつもありがとうございます。と、ねぎらいの言葉を贈りたくなった。せわしさにひしゃげた心が、公園を散策して、ふくよかさを取り戻したのだから。
(ライター/佐野一好)
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