Vol. 175|RYU GALLERY オーナー 山仲 久美子

山仲久美子さん

世に放つ

空間そのものを演出して、ひとつの芸術作品として表現する、インスタレーションという手法がある。その場所ならではの環境や素材に作家の創造性が交わることで成立する、まさに一期一会の芸術といえる。

富士宮市内の住宅街にあるRYU GALLERYオーナー、山仲久美子さんは美術大学でインスタレーションを学び、陶芸作家として活躍しながら、現在はこのギャラリーの運営に心血を注いでいる。設計段階からこだわり、自らデザインしたという約9坪の空間では、絵画・彫刻・工芸・写真など、多彩なジャンルのアート作品が展示され、訪れる人の目と心を刺激する。

企画展のプロデュースでは目利きした作家の展示に特化することで、独自の世界観を体現している山仲さんだが、アートと向き合う姿勢はどこまでも実直。そしてその根底には命や自然に対する謙虚さが、優しく横たわっている。

陶芸作家として活躍してきた山仲さんがギャラリーのオーナーになった経緯は?

ここはもともと、2009年に富士市から転居した際に作った、私のアトリエ兼展示スペースでした。そのうちに知り合いの作家さんの作品も少しずつ展示するようになったのですが、作家の命ともいえる作品をお預かりする以上、いい加減な扱いをするわけにはいきません。自分の創作活動の片手間でやるのは失礼ですし、どうせなら本気でやろうと決意して、カフェと陶芸教室を併設したアートギャラリーにしました。現在は月に2回の企画展をメインに、いろんな分野の作品を展示・販売しています。

RYUというのは亡くなった夫の名前の一部から取っています。夫は広告代理店で映画CMの制作を手がけていたクリエイターで、アートへの造詣も深い人でした。私自身、『もっと勉強しなさい』と夫にはよく叱られましたし、作家としても育ててもらったと思っています。生前から『いつかアートを発信する場所を作れたらいいね』という話もしていたので、このギャラリーを続けていくことは、きっと夫も喜んで応援してくれるだろうと思います。

RYU GALLERY

RYU GALLERY

いわゆるレンタルギャラリーではなく、山仲さんご自身が企画した展示にこだわる理由は?

作家さんに場所だけを貸すのではなく、自らの主催で行なうのは、オーナーとして展示内容に責任を持ちたいからです。そのため私が面白いと思う企画、いいと思う作家さんに出展をお願いしています。せっかくなら地元で頑張っている作家さんに発表の場を提供したいですし、幸い富士・富士宮には素晴らしい創作活動をしている方がたくさんいるので、展示スケジュールは1年以上先まで埋まっている状態です。

とはいえ、まだ実績や知名度がない作家さんでも門前払いはしません。作品を見せていただいて私が面白いと思えば、グループ展への参加を提案することはよくあります。場合によっては作家さんと話してみて、表現者として面白そうな人だなと思ったら、作品を見ずにOKを出すこともありますね(笑)。

実績のある作家さんの仕事はもちろん素晴らしいですが、私としては自ら挑戦する人、できるかどうか分からないけど熱意はあるという人にこそチャンスを活かしてほしいですね。特に若い作家さんには作品を作るだけではなく、発表の機会を持つことの大切さを伝えています。どれだけ多く創作しても、自分の手元に置いたままでは意味がありません。誰かに観てもらうこと、感じてもらうことで、その作品は初めて世界に放たれて、作家だけでは生み出せない価値を持ちます。そのための拠点になれたら嬉しいですし、近くで伴走しながら作家さんを育てていくことも、ギャラリーの使命だと思っています。

作品を作ることと、それを多くの人に届ける場を作ることは、どちらも大切な創作活動なんですね。

それがまさに、私の専門であるインスタレーションの考え方ですね。

インスタレーションは空間全体を作品として表現する芸術で、最近になってようやく認知されてきた言葉ですが、もともとは『舞台装置』という意味です。個展を開く作家さんにはいつも、このギャラリー全体を自分の空間として表現してください、そうすればきっと楽しい展示になりますよと伝えています。置かれた作品だけに目を向けるのではなく、もうひと回り広い視野で空間を眺めてみることで、その作家の世界観をより深く味わえます。グループ展の場合は、別々の作家さんの作品が一つの空間に共存することになりますが、これもまた面白いですよね。

グループ展はただ作品を並べればいいと思っている人、個展よりも格が低いものだと捉えている人もいますけど、そんなことはありません。各作家の個性に溢れた作品同士が対峙して、お互いにせめぎ合う、その化学反応を楽しめるのがグループ展の醍醐味なんです。もちろん作家さんにとっては他の作品から影響を受けて、切磋琢磨できる貴重な学びの機会にもなります。また企画から展示まで行なう私にとっても、グループ展は表現の場です。どんな作品が集まってくるのか、搬入された時に初めて知るわけですが、それらをどう配置して空間をデザインしていくか、毎回頭を悩ませています。その行為自体がひとつの創作であり、私のインスタレーション作品なんです。

山仲さんのインスタレーション作品

山仲さんのインスタレーション作品

陶芸作家としての活動についてもお聞かせください。

じつは陶芸を美大で専門的に学んだわけではなく、友人に誘われて市民向けの陶芸講座に参加したことがきっかけなんです(笑)。最初は趣味のつもりでしたが、どんどんのめり込んでいって、始めて1年後には自分だけの作品を作りたくなって、窯を買ってしまいました(笑)。

ライフワークにしているテーマは『細胞』です。自分が生み出す作品とは何だろうと自問した時に、女性の私にとって根源的なものは卵子、つまり命の始まりとなる一つの細胞だと着想したんです。窯で焼いた一つひとつの作品を細胞に見立てて、それらを何十個、何百個と並べていくことで、大きな生命体としての作品が生まれるという構成です。

とはいえ、同じものを量産しても面白くないので、細胞は一つずつ造形して、模様を入れて、命を吹き込んでいきます。そうして生まれた細胞たちを展示会場に持ち込んで、その場で浮かんできたイメージに沿って一気に配置していきます。細胞は何ヵ月もかけてコツコツ作りますが、並べる作業は1時間程度で完成することもあります。完成した作品は記録用の写真だけ撮って、そこでおしまい。展示期間が終わればあっさり解体して、同じものは二度と作りません。そのライブ感がいいんです。このやり方だと作品をどこまでも大きくすることができますし、同じ細胞を使っても毎回まったく違う作品になる面白さがあります。細胞そのものに宿っている力と、その時の自分の感覚、展示する場所の環境をかけ合わせることで、その瞬間ならではの作品が生まれます。着地点を決めずに作り始めることで、作品が作品を作ってくれる。私はただそれを追いかけて手を動かすだけ、そんな感覚ですね。

山仲さん制作風景

アートにできることを、
ひたむきに

作品が作品を作るという発想はとても新鮮ですね。

作品を自分の中だけに閉じ込めない、作品を自由にしてあげるという意識を大切にしています。

特に陶芸という分野の性質上、窯に入れて焼く工程がありますよね。ここで作品は自分の手の届かないところに離れるわけです。自然界でも強大な力を持つ火には抗えません。陶芸作家にとって、火は本当に怖い存在です。

緊張と恐怖と期待が入り混じった気持ちで火と対話しながら、窯を開ける時には毎回一喜一憂させられます。もちろん失敗することもありますが、そこから大きな学びを得ることもあります。そうやって、火に託すことで作品が自分から離れて、独り立ちして、いろんなものを吸収しながら歩きだしていく。

窯で焼く時も会場で並べる時も、私は自分をどんどんなくしていきたいんです。私という人間は世界に一人しかいませんが、そんな狭いところに囲い込んだ作品が面白いものになるはずがありません。作品を自然に任せることで、どう育っていくのか、そして観る人にどう伝わるのか。そのストーリーを眺めているのが、作家として何よりも楽しい時間なんです。

山仲さんの陶芸作品

山仲さんがギャラリーの運営や作品制作を通じて表現していることは、深いところでつながっているように感じます。

ギャラリーオーナーとしても、作家としても、アートで何ができるかということですね。私も最初のうちは何も考えずやっていましたけど、10年経ってようやく、ギャラリーとしての方向性ややるべきことが見えてきた気がします。

アートを自己満足の道具にするのではなく、社会への貢献として捉えた時に、キーワードになるのは『人間性』だと思います。歴史の中で脈々と受け継がれてきた人間性を、アートの力でさらに育んでいきたいですね。

今まさに、ギャラリーの運営と並行して取り組んでいることがあるんですが、それは『縄文人との対話』なんです。今年で4回目になる『縄文DNA野外展』というアートイベントを11月に開催します。旧芝川町の大鹿窪にある三澤寺というお寺の敷地をお借りするのですが、私は作家としての出展に加えて、イベント全体を取りまとめるキュレーターという立場で関わっています。

会場のそばにある大鹿窪遺跡は約1万3千年前の縄文草創期の国指定史跡で、定住集落としては日本最古級の遺跡です。日本人のルーツでもある縄文人の感性を現代の私たちのDNAの中から見つけだそうというコンセプトで、40名以上の作家さんが縄文DNAを意識しながら創作した作品を発表します。

出展する作家さんにはぜひ自分の足で会場を訪れてくださいと伝えています。人間の営みや歴史が息づく場所からイメージやエネルギーを受け取って、創作に活かしてほしいんです。最近はAIなどの科学技術が進化して、それに伴ってアート表現の変化も生まれています。でも私としてはテクノロジー一辺倒に向かいがちな今の世の中に対して、むしろそれとは逆方向にバランスを取る力として、自然や歴史への敬意も忘れてはいけないと感じています。

昨年コロナ禍が始まった時にふと、フランスの作家・カミュの著書『ペスト』を読んでみようと思いました。今と同じようなパンデミックに見舞われた世界で、カミュが何を結論づけたのかを知りたかったんです。そこには私たちがコロナ禍に向き合っていくためのヒントがあるかもしれないと思って。そしてカミュは最後に、『人類がこの不条理に対するには、ただひたむきな誠実が必要である』と語っていました。困難に押し流されることなく、その不条理を受け止め、ひたむきに連帯して誠実に向き合う。当たり前のようですが、やはり今の世界に一番必要なことなのかもしれませんね。連帯するための誠実な人間性をとどめていく力、伝えていく力が、私が愛するアートの本質だと思っています。

Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text & Photography/Kohei Handa

山仲久美子プロフィール

山仲久美子

RYUGALLERYオーナー/陶芸作家
富士市出身・富士宮市在住
(取材当時)

やまなか・くみこ / 田子小、静岡雙葉中学・高校を卒業後、武蔵野美術大学造形学部舞台美術科に進学し、インスタレーションを学ぶ。都内の服飾メーカーに勤務した後、結婚を機に地元富士市へ。子育てと並行して自身の創作活動を開始。東京や静岡のギャラリーで数多くの個展を開催し、女流陶芸文部大臣奨励賞(山村美紗氏所蔵・1992年)など受賞歴も多数。2009年に富士宮市へ転居し、『RYUGALLERY』をオープン。自らプロデュースした企画展を中心に、地元で活躍する作家たちが手がけた幅広いアート作品を発信している。

RYU GALLERY

富士宮市万野原新田 3920-11
TEL:0544-91-7043
OPEN:11:00~17:30
(休廊日は変動) 駐車場6台
https://www.ryu-gallery.jp/

RYU Gallery内観

今後の企画展スケジュール

『RYU あるいは幻獣たち展』 6/13(日)まで
『寺澤彰紘 + 石田敦子 ガラス展』6/16(水)~ 27(日)(6/21(月)休廊)
『サブロウ|ガラス展』6/30(水)~ 7/11(日)(7/5(月)休廊)

縄文 DNA 野外展 in 三澤寺

縄文草創期の国指定・大鹿窪遺跡のそば、鎌倉時代に開かれた由緒ある寺院で開催する野外アートイベント。
会期:2021年11月23日(火・祝)~28日(日)
場所:日蓮宗弘法山三澤寺(富士宮市大鹿窪332番地)
問い合わせ:0544-91-7043(RYUGALLERY・山仲)

取材を終えて 編集長の感想

Nutshellロゴ何が生活必需品で何が不要不急なのかいちいち線引きしなきゃならない日常を、私たちは1年あまり過ごしてきました。当初、音楽や観劇、美術鑑賞などは「なくても直ちには困らないもの」として自粛の対象でしたが、途中でみんな気づいたはずです。文化活動こそ、人間の生活にとってなくてはならないものだって。

ステージ上で人が演じる芸術を「パフォーミング・アート」と呼びます。演者同士や観客とのダイナミズムから生まれる、その場限りのライブ感が大きな要素です。一方で絵画や彫刻といった静物作品というのは「場」や「時間」に依存せず、作家自身の内面だけから生じるように思われがちですが、じつはそんなことありません。創造性を刺激する「場」、作品を発表する「場」、ほかの作家との共創の「場」があってこそ、作家たちはよい作品を生み出し続けることができます。そういった意味では静物アートも、パフォーミング・アートと同じくらいライブ的です。

山仲さんの仕事の本質は、そんな作家たちのための「場」をつくることです。機会を提供するという意味だけでなく、持ち寄られた作品を素材として全体がさらにひとつの作品になっているような、文字通りのアート空間そのものを創作します。そして何より、不要不急なものが自粛されがちな今、文化活動と経済活動を結びつける場の存在価値は大きいです。経済的に持続可能でないと、アートはいつか消えていってしまいますから。ぜひギャラリーに足を運んで、お気に入りの作家を見つけて、そしてもし余裕があったならその作品をひとつ手元に置いてみてください。

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