60代ライターの散歩道【カリフォルニア娘とおせんげんさん】
巨大な鳥居とセイラさん
お出かけレポート
富士宮市が募集したホームステイのホストファミリーに参加した。結果、米カリフォルニア州サンタモニカ市の高校生が我が家にやってきた。風景が春色に彩られた4月上旬、富士山を浅間大神(あさまのおおかみ)として祀った浅間大社の総本宮、富士宮市の富士山本宮浅間大社と界隈を一緒に歩いた。
勇気を出して英会話、ではなく
日本語で楽しく富士宮ガイド
米西海岸ロサンゼルスに隣接するサンタモニカ市は、美しい砂浜とサンセットで知られ、映画や歌にも登場する風光明媚な場所だ。富士宮市の姉妹都市であり、両市は長年友好的な取り組みを続けてきた。我が家に滞在したのはセイラさん。小さなころ沖縄県を訪れたことがあり、今は高校で日本語も勉強しているそうだ。これまでに京都府や飛騨高山などで満開の桜を堪能してきたそうで、日本の印象をつたない英語できくと、ちょっとはにかんでから「日本の食事はおいしいです」などと感想を語り、いわば日本語はペラペラだった!
富士山本宮浅間大社は地元では親しみを込めて「おせんげんさんと呼ばれているんだよ」と話した。巨大な朱色の鳥居の先に富士山が美しい。そよ風を受けた零れ桜から花びらが舞って、石畳の参道が花畳を一部に敷いていた。拝殿まで続くその参道の、「中央は神様の道だから」と伝え、我々は端を歩いた。馬上から矢を射る流鏑馬(やぶさめ)が行なわれる桜の馬場を渡り、手水舎(ちょうずや)で手口を清めてから楼門をくぐった。これから式を挙げるのか、新郎新婦が数組いて、セイラさんがしばし見とれる。花嫁衣裳というか、新婦の清楚な着物姿はやはり日本美のひとつだろう。着物体験ができたらよかったのになあ、と思う。同行した妻が拝殿前でお賽銭を放り、二礼二拍手一礼をやってみせる。セイラさんも同じようにやってから両手を合わせた。どの国の人でも心は同じで、家族や友人、旅の安全を祈願したそうだ。
巫女さんのいる社務所でセイラさんがおみくじを引くと小吉と出た。その社務所の左手にある小道から、同大社の北東に位置する湧玉池(わくたまいけ)へ歩いた。富士山の湧き水で満たされた湧玉池は、国の特別天然記念物だ。前号で紹介した清水町の柿田川を連想した。水辺の空気はひんやりと肌寒く、樹影が水面にゆれて風流だった。湧玉池にかかる神路橋から神田川に流れる清流をのぞくと、ゆったりと泳ぐニジマスの姿が見えた。ニジマスは富士宮市の特産品のひとつだ。
特産品といえば、お昼にモチモチの麺が特徴的なご当地グルメ・富士宮やきそばを食べた。この焼きそばを食べずに「美味ゃー」というなかれ。「うみゃーはデリシャス、というか、ヤミーの雰囲気でね」と方言まじりに言って笑わせた。昭和の雰囲気がぷんぷんする富士宮アーケード街を西へ歩いて、地元の食堂・浜松屋で団子も食べた。初めて団子を食べたそうで、緑茶を飲みながら「おいしい」とセイラさん。その後は神田川沿いを南下してイオンモールでお土産を物色することとなり、百均で買い物をした。
コロナ禍が落ち着いて、富士山などを目当てに訪日する外国人が増えるだろう。日本人には普通でも、例えば焼きそばをお箸で食べるだけでも、外国人にはエキサイティングな体験なのだと知った。カリフォルニア娘とおせんげんさんの街を歩いてなんだか世界が開けた。『門をたたきなさい、そうすれば開かれる』という聖書の言葉を思い出した。
(ライター/佐野一好)
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