98%枯れている木を治療して思うこと

瀕死のクロマツ

瀕死のクロマツ

樹木医が行く! 第14回

4月某日、宮城県仙台市の沿岸部にて、クロマツの樹木治療をしました。この木は東日本大震災の津波被害では奇跡的に生き残ったものの、その後重機による復興作業が進む中で周囲の土壌が踏み固められたり、根元に水が溜まったりしたため、次第に弱ってしまったそうです。この木を見た時の第一印象は「風前の灯火」でした。さすがに私も治療するべきかどうか悩みましたが、依頼主の「ぜひ!この木を助けてください!」という言葉で決心しました。樹木治療をするとなれば、私の考えうる知識と資材を総動員して、ベストの方法にて全力で行います。

樹木治療の現場で、実際にマツの根元をどんどん掘っていったのですが、樹高が20メートルくらいあるマツだけに、太い立派な根はたくさん出てきました。しかしすべて死んでいました。

「いくら風前の灯火とはいえ、木としてまだ生きているはず。いったいどこに生きた根があるのだろうか?」

生きた根が見つからなければ、私としても治療のしようがないと、かなり焦りました。

一般的に木は弱ると、幹から遠い部分から徐々に根が枯れていきます。そして本当に瀕死の木は最後の力を振り絞って、幹から直接細い根を出します。今回もそうでした。

幹の直径が50センチもあるような立派な木でしたが、幹から直接わずかな細い根を出しているだけでした。地上部を見ても地下の根系を見ても全体の98%、いやもしくは99%は枯れていましたが、諦めずに必死に生きようとしている姿がありました。

予定していた治療は無事に終えました。あとは人間と同じですが、木の生きようとする力頼みとなります。人間として、樹木医としてできることはここまでです。あとは祈るだけです。

今回初めての試みだったのですが、依頼主と一緒に木の治療を行う「みんなで一緒に木を治そう!」(仮称)の形態で行いました。私自身は身ひとつで治療現場に赴き、樹木医として治療方針案や知識を提供し、必要な資材・器材は全て依頼主側に手配してもらうという樹木治療の作業スタイルです(もちろん依頼主が手配できないものは私が対応します)。依頼主側のメリットは、樹木治療費用が安く抑えられることです。この形態は以前から私の中で温めてきたものでした。

クロマツの治療

依頼主と一緒に治療を行う

 

今回の治療では3人の方と一緒に作業をしたのですが、治療が終わった後、皆さんが今後この木のために何をすればいいのかと真剣に質問してきてくれました。この木と彼らの間に新たな思い出ができた瞬間です。

この仕事をしていて思うのは、「何とかしてほしい!」と依頼のある木は、依頼主にとって特別な思い出とともにある木々だということです。これからも思い出とともにある木を植え、育て、守っていく形で仕事を進めていきたいなと改めて思った一日でした。

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

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