猫草 〜スーパーフード・緑肥・樹木治療まで〜

猫草(えん麦)にわが家の猫もまっしぐら!
樹木医が行く! 第41回
猫を飼っている方はおそらく「猫草」をご存じかと思います。わが家でもコロナ禍以降に保護猫を引き取り、飼っています。そこで私も初めて猫草なるものの存在を知りました。猫草とは、猫が好んで食べる草の総称で、一般的にはえん麦や大麦などのイネ科植物の若葉がペットショップやホームセンターで販売されています。私が身近で目にするのはえん麦が大半で、おそらく静岡県内で流通している猫草のほとんどはえん麦だろうと思われます。
なぜ肉食系の猫が草を食べるのか?それはまだよくわかっておらず、諸説あるようです。一般的にいわれているのは、「毛づくろいで飲み込んでしまった毛を猫草を食べることで吐き出すため」「猫草の食物繊維で便秘を予防するため」「消化を助けるため」「ただ好きだから」などなど。いろいろな原因が考えられるそうです。
猫が好んで食べるえん麦ですが、じつは人間も食べています。えん麦は英語で「オーツ(oats)」「オートミール」といいます。これでピンとくる方も多いのではないでしょうか。オートミールはアイルランド、イギリスをはじめとした欧米諸国の朝食では定番の一つです。えん麦のもっとも有名な食べ方は、オートミールのミルク粥というべき「ポリッジ(porridge)」でしょうか。私は以前、イギリスのスコットランド地方に2年間ほど住んでいましたが、どうもこれは苦手でした。あまり食べた記憶がありません。
とはいえ栄養価という観点で見ると、オートミールはスーパーフードに分類できるほどの優等生とされています。森永製菓のウェブサイトから参照すると、オートミールには炭水化物、タンパク質、脂質のほか、ビタミンB群やビタミンE、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルに加え、食物繊維も多く含まれています。ごはんやパンなどと比較しても、一食あたりのエネルギーは少なく、タンパク質量はごはん1杯分とほぼ同じです。一方で食物繊維は5倍以上。エネルギーを抑えながら、タンパク質を摂取できるスーパーな食品となるそうです。

栄養価が高く朝食に人気のオートミール
また、えん麦は「緑肥植物」として農業でも活躍しています。緑肥とは、土壌改良や肥料成分の補充を目的として栽培される作物のこと。穂が実って収穫することを目的とせず、ある程度成長した後に刈り取って、土中にすき込むことで有機物の一つとして土壌を豊かにする役割を果たします。緑肥には「土壌の保水性や透水性を向上させる」「化学肥料を削減できる」「病害虫や雑草を抑制する」などのメリットがあるとされています。つまり、えん麦は肥料にもなるということです。
さらに、私の仕事である樹木の治療にもえん麦は時折登場します。えん麦、小麦、大麦などの麦類は、根が固い土壌層を砕きながら、より深くに伸長するという特徴があります。この特性を使い、固く締まった土壌を柔らかくほぐす処理の一環として、治療したい樹木の周りにえん麦を撒き、半年ほど放置して、その後刈り取ります。これにより、治療対象の樹木の周りの土は柔らかくなり、刈り取ったえん麦はそのまま樹木の緑肥となります。この治療は私も数回しか行なったことがありませんが、確実に効果を発揮してくれます。ただ、背丈1mくらいのえん麦という名の雑草が樹木の周りにボウボウに生え、見栄えが悪い、そしてその状況が半年間という長期間続くといった理由で、治療の依頼者に提案しても残念ながらたいてい却下されてしまいます……。
今回は、猫の嗜好品、スーパーフード、肥料、そして樹木治療手段と、さまざまな角度からえん麦という植物についてお話ししました。植物にはその特徴を活かしたいろんな使い方があるのですね!

喜多 智靖
樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』
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