フジサンタカイネ【オーストラリアからようこそ】

オーストラリア・パース在住のニックさん(右)とサムさん(左)

富士山周辺を訪れた外国人に 突撃インタビューしてみました

9月中旬のこの日、富士市街は晴天だったが、登山シーズンを終えたばかりの富士山スカイラインに入るあたりからうっすらと雲がかかり、富士宮口五合目に着く頃には視界もままならないほどの濃霧に包まれた。外国人観光客を探すどころか、どこに人がいるのかさえ分からないほどで、ここでインタビューはさすがに無理かと引き返そうとしたところ、意外な光景が目に飛び込んできた。背の高い若者二人が談笑しているのだが、よく見るとその脇には・・・自転車!?

 こんな貴重な機会を逃すわけにはいかない。迷わず声をかけたのは、ともにオーストラリア・パース在住のニック・ケネディさん(28歳)とサム・ドゥワイヤーさん(26歳)。二人は大学からの友人で、30日間の日本旅行の最中だった。まず気なるのは、この自転車。いや、レース仕様の本格的なこの乗り物は自転車ではなく「ロードバイク」と呼ぶべきなのかもしれない。自国から航空機で持ち込んだ愛車で日本を巡っているという二人。宿泊している山梨県富士吉田市を出発して、ここまで4時間かけて登ってきた健脚ぶりにも驚きだが、旅の全行程を聞いてさらに驚いた。入国した成田空港から出国する関西空港まですべて自転車で移動し、一度大阪を通り過ぎて広島まで行く予定だという。ここから広島まで、何日あれば自転車で行けるのかと聞いたところ、「うーん、10日くらいあれば行けるんじゃないですか?無理かもしれませんけど」と屈託なく笑い合う。それでも広島県と愛媛県にまたがる瀬戸内しまなみ海道にはどうしても行きたいそうで、全長約70キロにわたって海峡を横断できるサイクリングコースはオーストラリアのサイクリストの間でも有名で、ここを走ることが憧れの対象になっているようだ。

肌寒い濃霧の中でも気さくにインタビューに答えてくれた二人とその愛車

 富士山の印象についても聞いてみた。「昨日は富士吉田から美しい姿を見ることができました。とても大きくて、威圧的に思えるほどの力強さを感じました。今日はここまで登ってきたのに真っ白で富士山は見えませんが、この雲の存在感も素晴らしく、満足しています。僕たちの目的は自転車旅行なので、道が続いているこの五合目まで来ることができれば、頂上まで登らなくてもいいんです」と、ニックさん。富士山の捉え方にどこか奥深さを感じたが、それもそのはず。大学で地質学の研究をしているというニックさんは、富士山に限らず日本の自然に関心があり、次は長野県の白馬で日本アルプスを眺めながら走るのが楽しみだと語ってくれた。

 一方、優しい顔立ちで終始ニコニコしていたサムさんは物流管理の仕事をしているそうだが、趣味のサイクリングではアマチュアレースにも参加していて、華奢に見える身体ながらも、自転車では週に300キロほど走ってトレーニングしているという。「オーストラリアと日本はあらゆる面で違いがあって面白いです。日本の人々は世界一親切で礼儀正しくて、自転車で旅行をするのも快適です。快適といえば、日本のコンビニも快適で便利ですね。でもラーメンだけはコンビニのカップラーメンではなく、ちゃんとお店で食べますよ。行く先々で食べていますが、日本のラーメンは最高ですね!」と、どこまでも明るい。

 天候や体調にも左右される自転車旅行で、故障すればその場で修理し、宿泊先もその日ごとに確保しているという二人。この記事の締切りの時点では岐阜県にいるとの連絡があった。広島まではまだまだ遠いが、引き続き安全を祈りたい。後日メールで送ってもらった写真には、日本の山々を駆け抜ける二人の姿がいくつも収められていたが、その中の一枚に淡々と添えられていた、ナチュラリストらしい言葉が印象的だった。「時には晴れます、時には雨が降ることもあります(Sometimes it is sunny… Sometimes it rains.)」。なるほど、それで見えない富士山を前にしてもあんなににこやかだったのかと、納得できた。

長野県の苗場山から野尻湖まで120キロのコースの途中で、のどかな田園地帯を走るニックさん

長野県の飯縄山(いいづなやま)を登るサムさん。信州の高原でひと足早い秋の彩りを楽しんだようだ

(ライター/飯田耕平)

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