フジサンタカイネ【インドネシア・シンガポールからようこそ】

インドネシア出身のアグネスさん(左)とシンガポール出身のセルフィさん(右)。昨日初めて顔を合わせたとは思えないほど仲が良く、まるで家族のような二人だった

富士山周辺を訪れた外国人に 突撃インタビューしてみました

3月下旬、春めいた日も増えてきたため、今回の取材では富士宮市の白糸ノ滝まで遠征してみた。ところがこの時期、富士市街とは違い白糸周辺はまだ寒い。滝はあいかわらず壮観だが、夏場は心地良い小さな水しぶきが体温をどんどん奪っていく。外国人観光客はチラホラ見かけるが、団体ツアーの参加者は滞在時間が短いため、インタビューには気が引ける。特に東アジア系の団体旅行者は日本語はもちろん英語も全く話せないという方が多く、せっかくフレンドリーに接してもらえても、結局お互いに愛想笑いと握手程度しかできないという珍妙なやりとりになってしまう。

水辺に満ちたマイナスイオンとは裏腹に、寒さと取材の難航でマイナス思考に陥り始めた頃、意外にも背後から一人の外国人女性が英語で話しかけてきた。いかにも陽気そうなその女性が滝をバックに写真を撮ってほしいと言うので、まずは快く応じてから、「お一人で旅行ですか?」と尋ねてみた。セルフィ・ゴビンダラジョさんはシンガポール在住の53歳。お名前はセルフィさんだが、写真はセルフィ(自撮り)ではなく撮ってもらうのかと、くだらないダジャレが一瞬頭に浮かんだが、そこはグッと飲み込んだ。滝の駐車場に併設された無料の観光案内所に友達が待っていて、彼女は日本語が話せるからインタビューならぜひ一緒に、とのことで、やっと取材ができると喜び勇んで駐車場への階段を登った。

観光案内所で出会ったのが、もう一人の主役、アグネス・マルブンさん(28歳)だ。アグネスさんはインドネシア・ジャカルタ在住の大学生。同じ東南アジアとはいえ国籍が異なる、しかも親子ほど年齢の離れた二人が旅をしているのはどういうことなのだろう。さらに驚いたことに、二人は昨日初めて会ったという。2年ほど前に友人の紹介で知り合い、これまでメールやSNSでのみ交流していたというのだが、にわかには信じられないほど息のピッタリ合ったコンビなのだ。

セルフィさんはMRT(シンガポールの電車)の駅でマネージャーを務めていて、旅行が趣味とのこと。来日は初めてで、この日は10日間の滞在予定の2日目。前日の朝に成田空港に到着して、バスと鈍行列車で半日かけて富士宮までやってきたというから驚きだ。「私は鉄道会社の職員だから路線図を見るのは得意!」と満面の笑みだが、それとはまた別の話のような気も……。途中、熱海、三島、富士での乗り換えは英語の案内表示も少なく大変だったそうだが、どこに行っても周りにいる日本人が助けてくれたという。「日本人は本当に親切でハートフルですね」と嬉しそうに話してくれた。

一方、アグネスさんの行動力も興味深い。彼女は田貫湖畔の宿泊施設・休暇村富士に去年の8月からインターン研修で長期滞在しており、同じくインドネシアや台湾からの研修生とともに、今年6月まで日本語や日本文化に関する勉強を続けているという。会話だけでなく、ある程度は漢字の読み書きもできるという日本語能力の高さにも納得だ。本国では大学で日本語を専攻していて、日系企業も多いインドネシアでは日本語の需要が高いので、将来は日本語教師になりたいという目標を聞かせてくれた。研修が休みの日には観光で山中湖や静岡市方面まで足を延ばすそうだが、なにぶん田貫湖に戻る路線バスが早い時間に終わってしまうため、なかなか遠出ができないと苦笑いしていた。

日本の情報に詳しいアグネスさんのサポートがあるおかげか、即席カップ焼きそばやペットボトルのミルクティーなど、玄人好みのお土産を山のように買い込んでいたセルフィさんだが、明日の朝まで富士山周辺を楽しみ、その後は一人で岐阜県の世界遺産・白川郷の合掌造り集落へ向かうという。この時期の飛騨地方はまだ雪深いのではと心配になったが、世界中を旅している友人から白川郷の景色は素晴らしいから必ず行くべきだと強く勧められたという。「富士山と白川郷に行くのが私の夢だったから」と熱く語るセルフィさんなら、きっとこの先の旅も満喫できることだろう。

白糸ノ滝でセルフィさんに頼まれて撮った写真。ご本人もまさか地元の情報紙にそのまま掲載されることになるとは、この時点では思いもよらなかっただろう

富士山周辺の観光パンフレットを広げる。二人とも明るい性格で、インタビュー中も終始笑い声が絶えなかった

朝霧高原での一枚。日本食ではラーメンと焼きそばが好きというセルフィさんの要望に応えて、この日の昼食はアグネスさんおすすめの富士宮やきそばを食べたという

(ライター/飯田耕平)

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