漁師町の工場跡から生まれた新しいコミュニティ『循環ワークス』

鯖節工場の社名が残ったままの建屋

コミュニティニュース

冬らしい寒さが訪れた12月上旬の晴れ渡った日、狩野川沿いの住宅街にある工場へ向かった。その名は『循環ワークス』。廃業した鯖節工場を、環境を考えるコミュニティスペースにDIYで再生した循環工場だ。循環工場……あえてそう呼ぶ理由は、循環ワークスを立ち上げた山本広気氏の肩書が『工場長』だからである。

スマホのナビを頼りに漁師町の風情漂うディープな場所をウロウロ、この辺りかな……と見回していたら、「おはようございます」と山本工場長が自ら出迎えてくれた。営業時間は10時からと記憶していたが、まだ9時を回っていないというのにすでに工場内の大きな薪ストーブを数名の人が囲んでいた。「今日は寒いから、近所の漁師さんが暖を取りに来てるんですよ」と山本工場長が私の不思議そうな顔つきに気づいて教えてくれた。

環境を考え、生きる力を学び、地域と共存する

循環ワークス工場長の山本広気さん

なが〜い髭と人懐っこい笑顔が印象的な山本工場長。ひと目見ただけで「只者ではない感」が伝わってくる。その独特な風貌と人懐っこさは、21歳から世界を旅していたことに関係しているようだ。高校球児だった山本工場長が卒業したのは、バブル崩壊後の就職氷河期。なんとか電気関係の会社に就職し、2年間働いて貯まったお金でオーストラリアに行った。その後も、お金がなくなったら日本で稼ぎ、貯まればまたすぐに海外へ行くといった生活を7〜8年続けたという。旅先で出会った奥様と帰国し、函南町の山中で暮らしていた時に東日本大震災が発生。奥様は看護のボランティアとして、山本工場長も後に続き被災地へ駆けつけた。

原発の恐ろしさとモノにあふれた生活の脆さを目の当たりにして、震災後は原発反対運動などにも参加したが、声を上げるだけでは変わることがない現実に直面する。社会が変わらないならまずはできることから始めようと考え、電気の知識を活かして資格を取り、電気を自給するシステムを作って『山本電力』としてワークショップを始めた。『電気』ではなく『電力』と名付けたのには理由がある。「発電して供給する、どんなに小さなエリアでもいいから電力会社がやっているような、そんな仕組みを自分で作りたかったんです」。

ガラス戸が欄間のように配置された入り口

味わい深い空間のコミュニティスペース

 

2013年から始めた電気の自給システム・ワークショップは、2020年に『循環ワークス』という循環工場、環境コミュニティスペースへと姿を変えた。ここはヒト・コト・モノを循環させ、より良い生活の仕組みを考える場所だ。「工場を構える良い場所がないかと探し続けて7年が経ってしまいました。鯖節工場の跡地を買い受けた時は荒れ果てていて、そのままの状態で使うことはできませんでした。SNSで自分の思いを発信してボランティアを募ったら、全国から約500人が集まってくれて……DIYはとても大変でしたが、楽しかったです」。

循環ワークスの外観には鯖節工場の名残りがあるものの、入り口にはさまざまな形の個性的なガラス戸、その横には長さや厚みが異なる木材が置かれ、中に入るとまだまだ使える家具や食器、小物が所狭しとディスプレイされている。これらはすべて不要となった物を無料回収して販売しているものだ。「リサイクルショップといわれることが多いのですが、正確にはリユースショップ。もっと正確にいえば、循環ワークスは古物を売ることが目的ではなく、あくまでもヒト・コト・モノを循環させるコミュニティスペースだということ。ここでは何をやってもいいんです。本を読みに来てもいいし、ご飯を持参して食べてもいい。もちろん必要なものを求めて買いに来てもいい。古物を回収して売ることはモノの循環で、目指していることの一つですから」。

家具・食器・小物などがずらりと並ぶ

工場内ではオーガニックな食事も楽しめる

 

そう語る山本工場長が力を入れているのは、知り合った仲間と支え合って環境に負荷のかからない暮らしを実現することだ。その一つの集大成としてこの建屋がある。周囲をよ〜く見渡してみると、電柱から出ている電線が建屋にはつながっていない。そう、ここでは電気の自給自足を行なっているのだ。自給システムは2つのラインで装備。両方が使えなくなれば発電機が稼働するといった、完全なオフグリッド(電線網から外れている)体制だ。「大きな声では言えませんが、電気の残量が少なくなるとワクワクしてくるんですよ。腕が鳴るというんでしょうか(笑)。もしもの時にはここを使ってくださいと自治会の方にもお伝えしています。停電になってもここだけは灯りもつくしトイレも使えますから、と」。

循環ワークスでは定期的にワークショップを開催して、元来日本人が持っていた「生きる力」を考えるきっかけづくりを行なっている。「僕は今でもお百姓さん(百の仕事を持つ人)になりたいんです。衣食住のことは何でもできるようになりたいし、昔の日本人は、百とはいわないまでも、今よりはいろんなことができていたはずです。そういった思いを込めて電気のワークショプはもちろん、異なるスキルを持つスタッフの力を借りながら、無農薬野菜づくりや味噌づくりのワークショップもやっています。ただその思いは、強制しない、否定しないことを心に決めています。共感したならまた来ればいいし、何かを始める時に循環ワークスを思い出してくれればいい。僕たちにできることはどんなことでも手伝う覚悟です」。

富士山が望める屋上にはサウナも!

電気自給ワークショップの様子

 

取材を終えて、文明的生活にどっぷり浸かっている自分をちょっぴり反省しながら考えた。私には何かできるかなぁ……と。そうだ!まずは直近のイベントで使うお正月飾りを今年も手づくりしよう。そして今年はごぼう締めにもチャレンジしよう。出来はどうあれ、自己満足が一番だ。上手くできたら、思いっきり自分を褒めてあげよう!

(ライター/reiko)

循環ワークス
沼津市我入道浜町308

 

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