気づいた時から始めよう 骨盤底筋群の訓練
産婆の住む街から 第3回
骨盤底筋は、尿失禁や便・ガス失禁、骨盤臓器脱などに関わる筋肉です。女性は加齢のほか、出産によるダメージで機能が低下することがあります。生活も便利になり、昔は日常生活の中で鍛えられていた骨盤底筋が以前より弱っているともいわれています。骨盤底筋機能を保つためには、骨盤底筋への負荷に気をつけた生活と訓練が必要です。今回は正しく骨盤底筋を働かせて筋力をアップするための方法を説明します。
まずは準備体操。筋肉やその周囲の組織が凝り固まっていては上手に動かせません。サッカーボール大のボールの上に座り、ゆっくりと前後左右に、腰を床と水平にしたままお尻を動かしてストレッチをします。ピラティスボールやおもちゃのボールのように少し弾力のあるものがおすすめです。
準備体操が終わったら、仰向けまたは椅子に座り、軽く息を吸って、吐きながら膣や肛門をすぼめて頭側に引き上げるように力を入れます。時間や回数などは現在の筋力によりますが、まずはすぼめて15秒ほどキープ、その後45秒ほど休憩を繰り返し、10回くらいやってみましょう。骨盤底筋体操は尿漏れなどの症状に効果があるとされていますが、効果が現れるまでには3ヵ月くらいかかることもあります。
お腹やお尻、内股には力を入れず、骨盤底筋だけを動かすように意識して行ないましょう。他のところに力が入ってしまう場合は少し弱い力で行ないます。動いていることがよくわからない方は、肛門をピクピクさせることから始めてください。表面から動きを確認しにくい筋肉なので、正しく動かせずに、かえって症状を悪化させてしまう場合もあります。よくわからない方は、洋服の上から肛門の少し前(会陰)を指で触りながらやってみましょう。すぼめた時に会陰が頭側に引き込まれるように動いていれば正しくできている証拠です。座った姿勢の場合、筒状に丸めたタオルの上に座って体操すると、感覚がつかみやすい方もいます。
正しい動きがわからないという方には、骨盤底筋のカウンセリングを行なっています。内診や会陰からの超音波を行いながら確認する方法と、下着を脱ぐのは恥ずかしいという方のために、お腹の上から超音波で確認する方法があります。正しくできているのか、一度確認してみると安心ですね。
正しく筋肉を動かせるようになったら、素早くすぼめたり、いろいろな姿勢で動かしてみましょう。自信がついてきたら、日々の生活の中でも挑戦してみてください。私は車の運転中、赤信号で止まった時に骨盤底筋を収縮させ、青信号になったら忘れて運転するようにしています。
トレーニングというと、筋肉をムキムキに硬くするイメージがありますが、ずっと緊張したままでは性交痛や排便困難の原因になることもあります。収縮すべき時に収縮し、リラックスすべき時にはちゃんと緩めることができる必要があるのです。
数年前にバルセロナで行なわれた学会のワークショップで、フラメンコを踊りながらの骨盤底筋訓練を体験しました。踊っている途中でくしゃみをする場面もあり、実際の動きに合わせて正しくタイミングよく働かせることがとても大事だと学びました。このように実際に骨盤底筋を働かせたい状況のシミュレーションをするのは効果的です。例えば、重い荷物を持ち上げる時には、足を前後に開き、膝を曲げて体勢を低くして荷物に手をかけ、骨盤底筋を働かせてから持ち上げて膝を伸ばします。くしゃみをする時はどうでしょう。鼻がムズムズしてきたら足を交差させて、内股やおしりにギュッと力を入れて、骨盤底筋をすばやくすぼめてから「くしゃみ」!トレーニングは骨盤底筋以外の筋肉に力が入らないように行ないますが、実際の場面では漏らさないことが優先なので、内股やお尻の筋肉も全部使います。そして何よりすぼめるタイミングが重要です。くしゃみが出た後でどんなに強くすぼめても、あとのまつり。しなやかに良いタイミングで働く骨盤底筋を目指して、今日からトレーニングを始めましょう。
堀田 久美
菜桜助産所代表 助産師・保健学博士
ほった くみ/富士市宮島で助産所を営み、出産・産後ケア・育児相談から、更年期 以降の女性の健康管理まで、出産を経験する女性の一生をサポート する「ママたちのお母さん」。母親のための各種教室も随時開催中。
菜桜助産所
訪問看護ステーション菜桜
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