『しずおか富士山PR展in東京』に富士市民が行ってみた

東京の真ん中で富士山周辺の魅力を発信

今年も富士山の登山シーズンが到来する。多くの人が富士山を訪れるのは喜ばしいことだが、近年では外国人旅行者の急増に伴うオーバーツーリズム、夜通しで山頂を目指す危険な「弾丸登山」と遭難事故の増加など、新たな社会課題も表面化している。そしてそれらに対応するための人数規制や入山料の導入など、安全で持続可能な富士登山のあり方を模索する過渡期でもある。

そんな2025年の山開きを前にJR東京駅近くで開催された『しずおか富士山PR展in東京』に行ってきた。文字通り、静岡県側からの富士登山と富士山周辺の魅力を首都圏の人々にPRするイベントだ。富士市の自宅から新幹線で東京へ行き、富士山麓の魅力について話を聞いて、すぐに富士市に帰ってくるという、なんとも不思議な一日だったが、会場の雰囲気に触れ、出展者や来場者の声を直接聞いて感じたことを共有してみたい。

イベントが行なわれたのは6/18(水)と19(木)の2日間。会場はJR東京駅丸の内口から直結する商業施設『KITTE』内にある『東京シティアイ』だ。両日とも11時から18時半まで、ビジネスマンの昼休みや帰宅時間帯を中心に、多くの通行人が足を止め、賑わいを見せた。主催者発表によると、来場者数は2日間で延べ約5,500人にのぼったという。

オフィス街の昼休みは大盛況

 

今回のイベントは、富士市・富士宮市・御殿場市・裾野市・小山町の5市町の観光協会で構成する『しずおか富士山利活用推進協議会』が企画・運営するもので、自治体だけでなく民間企業や観光施設も参加。静岡県内3つの登山口からの富士登山や周辺の観光情報の発信に加えて、田子の浦しらす、富士宮やきそば、地元スイーツや雑貨などが展示販売され、地域の魅力を多面的にアピールする場となった。ほかにも、美しい富士山写真の展示や紹介動画の放映、フォトスポットの設置など、慌ただしく都心を行き交う人に楽しんでもらう工夫が凝らされていた。

しらすってどんな味?

富士市の「第39代かぐや姫」小西沙季さんもPRに貢献

衣装を着て富士登山を擬似体験できるフォトスポット

 

取材で訪れたのは2日目の昼から夕方にかけて。会場を出る来場者の何人かに話を伺った。「いいイベントですね」「試食ができて嬉しかった」「富士山の写真は目を引きますね」など、皆さん前向きなコメントをくださるのだが、さらに掘り下げて聞いてみると、じつに興味深い反応が。「晴れた日に東京から富士山が見えるときれいだなと思うけど、実際に富士山麓に行ったことはない」「日帰りで静岡県に行くなら御殿場のアウトレットか熱海までが限界」「新幹線に乗っていて富士山が見えるとスマホで写真を撮るけど、あのあたりが富士市っていうの?」「田子の浦しらすは美味しかったけど、田子の浦港がどこにあるのか知らない」などなど。「そ、そうですか……」と少し残念な気持ちにもなったが、地元にいてはなかなか触れることのない東京で暮らす人のリアルな感覚を知ることができたのは収穫だった。

なにより、まだ認知度が不十分だからこそ、このようなイベントを開催する意義があるのだ。富士・富士宮エリアの担当スタッフとして運営に携わる、一般社団法人富士山観光交流ビューローの秋山さんはこう語る。「コロナ禍での中断はありましたが、毎年恒例となっているイベントで、地道な発信を続けていくことが大切だと思っています。また今回はオーバーツーリズムや弾丸登山への対応策として、富士山に登るだけではなく、富士山麓を周遊することで、自然・食・体験などを幅広く楽しめることが伝わるように努めています。富士市のとうもろこし『富士山麓わくわくコーン』を初日に買ってくださった方が、2日目にもまた買いに来てくださったんです。イベントを通じて、富士山だけじゃないこの地域の素晴らしさを知ってもらえればとても嬉しいです」。

限定グッズや割引券の配布にも多くの人が集まった

富士山観光交流ビューローの緒方さん(左)秋山さん(右)

 

華やかな都心の喧騒の中では、ほんの小さなイベントかもしれない。だがそこで強く感じられたのは、自治体や業種の垣根を越えて富士山麓の魅力を多くの人に届けようとする、関係者の皆さんの純粋な思いだった。そして同時に「外から見る富士山」について話を聞き、考えたことで、自分自身も地元の良さを再発見する貴重な機会になった。

首都圏出身で東京駅近くの会社に勤務する20代の女性2人組に話を聞いた。富士山といえば富士急ハイランドで遊んだ時に眺めただけで、目的地として訪れたことはないという。ただ、彼女たちが帰り際に語り合っていた言葉が印象的だった。「でもさ、やっぱり一生に一度は登ってみたいよね、富士山」。いつかは分からないけど、一生に一度は訪れてみたい場所――。そんな憧れの山を毎日間近で見上げながら暮らしている身としては、これ以上の褒め言葉はないなと、誇らしく感じた。

(ライター/飯田耕平)

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